中宮雷火

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【忘れない】

「もしかしてあなた、大智の娘さん…?」
店長さんは突然言い出した。
大智というのは、オトウサンの名前だ。
なぜ、オトウサンの名前を知っているの…?

「な、なんで…?」
私は混乱した頭をフル回転させ、やっとその言葉を放った。
すると、店長さんはフフッと微笑み、私のギターを指差した。
「ほらここ、ギタサブロウのシール貼ってあるでしょう?
大智もここに同じシールを貼っていましたよ。」
ギターの側面には、約30年ほど前に人気だったと言われているキャラクター・ギタサブロウのシールが貼られていた。
約4年前、お母さんからギターを受け取ったときに見つけたのだが、「なんでこんな目立たないところに貼っているんだろう?」と不思議で仕方なかったのを覚えている。
「あ、申し遅れました。」
店長さんはそう言って立ち上がった。

「私、子供の頃からあなたのお父さんと親しくさせていただいていました、槇原晋也と申します。」

私は開いた口が塞がらなかった。
まさか、こんな奇跡の出会いがあるなんて。
「オトウサンと、親しかったんですか…!」
「幼稚園から大学まで、ずっと一緒でしたよ。お互い社会人になってからは会う機会があまりなかったんですけどね。
そんな時に大智が病気になったと聞いたときは驚きましたよ…
まさか本当に死んでしまうなんて…」
店長さんは悲しそうに俯いた。
「へー!そんなに長い付き合いなんだねぇ!
しかし、奇跡ってあるもんだねぇ…」
悲しそうな流れをぶった斬るかのように、
女性の店員さんは明るく振る舞っていた。
「あ、というか私の名前言ったっけ?
私は槇原夏子。
なっちゃんとでも呼んで!アハハ!」

私は「やっぱり今日はうちに泊まりなよ!」という夏子さんの厚意に甘え、一晩だけ泊めてもらうことにした。
さっき知り合ったばかりの人の家にお邪魔するなんて申し訳ないけれど、きっと槇原さん夫婦は悪い人では無い。
むしろ素敵な方々だ。
それに、晋也さんがオトウサンの親友と知ったからには是非お話を聞いてみたい。
だってオトウサンのことを知りたいから。

「大智は小さい頃から芸能人というか、
周りを楽しませることが好きだったんです。」
夕飯の唐揚げを囲みながら始まった回想は、
その一文から始まった。
「小学5年生のときかな?
急にギターを始めたんですよ。
小ぶりなアコースティックギターを抱えて、
公園で弾き語りなんてこともあったり。
僕の実家は楽器店を営んでいて、よくうちに遊びにきては『これ、大人になったら買いたい!』って言ってましたよ。」
晋也さんは微笑みながら喋ってくれた。
「中学生になってからは一緒にバンドを組んだんです。」
ごちそうさまの後には、中学生時代の話と共に写真を見せてくれた。
並んでピースをしているのが、オトウサンと晋也さん。
両脇には同じバンドのメンバー。
「大智がギターボーカル、僕はドラムでしたね。あれは本当に楽しかった、最高だった。」
「えっと、コピーバンドだったんですか?」
「最初のうちは有名バンドのコピーをしていたけど、あるとき大智が『見て!曲作ってみた』って楽譜を持ってきてね。
それからはオリジナルの曲をみんなで作ってみたりもしましたよ。
高校生の頃には本格的にライブハウスに出るようになったり。
文化祭でも披露したなあ。」
晋也さんは、昔の記憶をなぞるように語ってくれた。

「海愛ちゃんー!お風呂の準備できたからいつでも入ってね―!」
「はい、ありがとうございます!」
夏子さんの言葉で、過去巡りの旅は一旦休憩を迎えることになった。
私はお風呂の準備をしながら、晋也さんの言葉をなぞり返していた。
「大智との思い出は忘れられないし、忘れないですよね」

10/17/2024, 11:23:58 AM