白眼野 りゅー

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 どく、どく。鋼鉄のように重くなった心臓が、周囲の血管を巻き込むみたいに強く、強く拍動する。

「……ああ、いい音」

 僕の胸に耳を当てて、君はうっとりと呟いた。


【冷たくて熱い鼓動】


「……羨ましいな」

 僕に密着したまま、君はぽつりと言った。

「にんげんの熱。にんげんの鼓動。私にはないもの。羨ましいなぁ」

 そう言って僕と触れ合う君の胸は、だけど確かに熱を帯びていた。

「私の鼓動は、いつも硬くて、冷たくて。血液を模した冷たいオイルを機械的に流すだけ。氷みたいな作動音が、ずっとコンプレックスだった」

 君――人間型アンドロイドM2778の胸にある、オイルを送り込む器官がオーバーヒートする。かたかたかた、機械的な作動音。人間のそれを超える体温。

「……最期に、貴方と同じになれて、嬉しい」

 人は死ぬと冷たくなる。アンドロイドは、死ぬときに熱くなるらしい。君の熱い、熱い鼓動が冷えきった結末を引き連れて、密着した僕の体にまで響き渡っていた。

7/31/2025, 12:59:15 AM