行かないでと、願ったのに(TOV)注:腐向け
フッと意識が戻った。
少しの間、完全に意識を失っていたらしい。
らしくないのは、高熱を出して寝込んでいるからで。
ぼんやりしたまま、布団の中で気配を探った。
部屋の中には、誰の気配もなかった。
(そりゃそうよね)
記憶を呼び起こす。
戦闘で発熱系の毒を浴びた。
ぐったりしたレイヴンをここまで運んでくれたのはユーリだった。
レイヴン以外に、リタとカロルもやられていた。
この部屋にいないという事は、他で治療を受けているのだろう。
高い熱に心臓がギシギシいって、痛くて苦しかった。
このまま止まってしまうのではないかと思った。
レイヴンを布団に寝かせて部屋を出ようとするユーリの服の袖を、引き止めるように弱い力で一瞬握ってしまった記憶がある。
(っかー!何やってんだか!!)
レイヴンは1人、布団の中で悶えた。
行かないで。ひとりにしないで。
口に出しては言えなかった。
当たり前である。
(口に出なくて良かった!!!マジで危なかった!)
恥ずか死ぬところであった。
リタとカロルも倒れているのだ。
運ぶ役目こそ体格差を考えてユーリが務めてくれたけれど、それが終われば看病の優先順位は低い。
2人の元へ向かったのだろう。
ここに誰もいないのは、当たり前の事であった。
(ひとりで旅をしてた頃は全く平気だったのに……)
あの頃は死人だったので、死への恐怖もなければ、体調不良を気にする事もなかった。
(甘えてる…のよねぇ…たぶん…)
いい年したおっさんなのに。
自己嫌悪に陥って布団の中で丸まっていると、扉の前に気配を感じた。ノックのあと、人が入ってくる。
ユーリだった。
布団の中からジト目を向けたレイヴンと目が合うと、ニヤリと笑った。
「なんだよ、起きたのか」
「…リタっちとカロルくんは…」
「ああ、薬が効いてぐっすり寝てる。おっさんもどうだ?薬はさっき飲ませたんだが…効いてるか?」
薬を飲まされた記憶はないが、さっきの意識が落ちている間の出来事だろうか。
確かに、枕元に薬と水が置いてある。
そう言われてみれば、トチ狂う事をしでかしそうになったさっきよりは随分頭が働いているような気がするので、薬が効いているのだろう。
「ん、大丈夫と思う」
「そっか」
ユーリはそう言うと、レイヴンのベットの横の椅子に腰かけた。
「………」
「ん?どうかしたか?」
「いんや…何してんのかなと思って」
「看病?」
「へ?いやいや、おっさんなら大丈夫だって」
「いやいや。おっさんが一番心配だからな」
ユーリにそう言われ、ドキッとする。
意味が理解できない。
「な、何で?」
「こういうのは若いのより年寄りの方が悪化しやすいって言うだろ?」
ちょっとでも動揺した自分を殴りたくなった。
布団からガバリと身を起こす。
「とっ、年寄りって何よう!おっさんまだ、ぴっちぴちの中年よ!?」
「反抗にキレがねぇ。おら、ちゃんと寝てろ」
ユーリはそう言って、レイヴンに横になるよう促した。手つきがめっぽう優しくてクラクラする。
(いや、クラクラするのは熱のせい、熱のせい)
レイヴンは己に言い聞かせる。
ユーリは布団の上に手を置いたままだ。
重さと、厚い布団越しでは伝わらないはずの温もりを感じる、気がする。
「具合悪くなったらすぐに言えよ」
「………」
「ここにいるからな」
囁くような小声で言われ、レイヴンは安堵からか、ストンと眠りに落ちた。
寝息をたてるレイヴンの顔を覗き込み、ユーリはため息をついた。
(まったく。このおっさんは)
リタとカロルはレイヴンが庇ったため、軽傷で済んでいた。一番毒を被ったのはレイヴンだ。
発熱系のよくある毒で、薬があるのが幸いだった。
が、レイヴンはらしくなく弱っていて、心配した。
薬を取りにいったん外に出ようとして、ここにいて欲しいと袖を掴んでおきながら。
「素直じゃねぇな」
ユーリは呆れた笑いを浮かべたつもりであったが、その笑みは、随分柔らかかった。
11/3/2025, 1:20:30 PM