『君の背中』
一定のリズムで揺れる心地に目を覚ました。
惚けた頭で周りを見渡して、自分が誰かの背中に背負われていることに気づく。
誰だろう、なんて考えて、起きた?と優しくかけられた声で君だと理解した。
触れたくても触れられなかった、触れられる距離なのに触れなかった、君の体温が伝わって心臓が鼓動を早める。
「起きた…。ごめん、寝ちゃってた?」
「うん、ぐっすり」
顔を見なくてもいつもの優しい笑顔が浮かべられていることが想像できる。
嬉しさと、恥ずかしさと、いろんな感情がない交ぜになって、ごめん…、とまた呟く。
「全然大丈夫だよ。歩ける?」
自分がまだ背中に乗ったままなことを今更ながら気づいて、慌てて返事をする。
「うん!ごめんね、重かったでしょ」
「全然。むしろ軽いくらい」
また笑いながら返事が返ってきた。
私が降りるときにさりげなく支えてくれた手に性懲りもなく胸がときめく。
「ありがとう」
朱くなった顔が見られやしないか少しハラハラしながら君の隣に並ぶ。
さっきまで触れていた体温が離れてしまったことに言い様のない寂しさを感じた。
自分から触れようとして、触れられなくて、ただ手を握って開いてを繰り返す。
「あのさ…」
仄かに緊張を孕んだ君の声が鼓膜を震わせた。
「手、繋いでもいい?」
「……え」
いや、あのさ、心配だからさ、なんて矢継ぎ早に言葉を紡ぎ出す君の顔が、私と同じくらい朱いことに気づいた。
心配だから、の裏に隠れた意味を悟って、途端に心の奥が感じたことのないほどの熱を発する。
返す言葉なんて、迷うことはなかった。
2/9/2025, 11:46:43 AM