白糸馨月

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お題『無垢』

 彼氏に隠していた同人誌が見つかってしまった。だいたいが男同士の恋愛モノだ。彼氏が

「これなぁにぃ?」

 って見せてきたので、私は思わずその場に倒れてしまった。

「あれ、なんで倒れたの?」

 上からのぞきこむ彼氏は本当に心配そうにしている。私はすぐさま起き上がった。

「今見たものは記憶から消去してほしい!」
「え、なんで?」
「世の中には知らない方がいいことがあるんだよ」
「えーなにそれ意味わかんない」

 困惑するのも無理はない。私みたいな隠れて腐女子をやってる身からすると、人に見つかると死にたくなるものだ。だが、彼は付き合った時からなにもかも全てオープンにしてきた。
 マッチングアプリで同じアニメと漫画が好きで付き合い出したが、彼と私では好きの種類が違う。彼はただのアニメ好きで、漫画好きだ。『二次創作』なんて単語は知らないし、Pixivも見ない。
 だが、

「っていうか、こんなのあるんだねー。ってか、絵きれいすぎじゃない? 原作はもっとちがうよ。それにAとBはこんな抱き合わねぇし」

 そう言って、彼は同人誌を私に返してくる。

「こんなAとBが抱き合ってる表紙とか、興味本位で読みたくなるけど、読んでほしくないなら返すよ」

 彼の寂しそうな顔に罪悪感がわきあがったが、それと同時に彼の心遣いに私の心があたたかくなる。

「うん、そうしてくれると助かる。ところで今日、なに食べたい?」
「オムライス」
「わかった」

 せめて彼の好きなものを作る。私は安心した。自分のことを棚に上げて、彼の純粋にストーリーとかキャラを追うところに好感を抱いていたから。
 だから彼をこっち側の世界に踏み入らせないことが出来て胸を撫で下ろした。彼を穢さないようにしようとまた気持ちを新たにした。

6/1/2024, 2:45:14 AM