KAORU

Open App

 老夫婦、わけあって北国に移住しました 3
 
 北国では、降雪による破損被害を防ぐため、家屋に板塀を渡したり、木板を窓ガラスに打ち付けたりして、雪囲いをする。
 庭の植木も同様。
「雪って重いんだろうねえ、こんなに厳重に囲うんなら」
 庭師さんを呼んで、作業をしてもらっているのを見守っていたじーさんが言うと、
「雪かきも大変だっていうよね。腰を痛めるって」
「こわいなあ」
「ほんとだねえ」
 でもね、と二人は目を見交わしてふふふと笑みを交わす。
「ちょっとだけ楽しみなんだよね。雪、降るの」
「そうだよね、ここだけの話ね。地元の人に不謹慎だって言われたらたいへん」
 ばーさんも目を細める。
「雪が降ったらさ、こっそり雪だるま作ろうか」
「いいねえ。でも、でっかいと腰痛めるかもしれないから、ちっさいのね」
「雪合戦とかしたいなあ。夢だったんだよね、陣地を作って、相手に雪玉投げるの」
「たしかに、楽しそうだったよね。テレビで見たとき」
 知らず、声が弾む。

 人を童心に返す力がある。雪には。
 じーさんとばーさんは、縁側で肩を並べて空を見上げる。そして、二人は曇天から雪が舞い始めるのを楽しみに待つのだ。

#雪を待つ
 

12/16/2024, 9:36:03 AM