川柳えむ

Open App

 夏休みも終わりかけの8月下旬。
 先輩の思い付きで、星を見に行くことになった。
 先輩のお父さんがワゴン? ミニバン? を出してくれて、行けるメンバーみんな引き連れて、近くの山の上へとやって来た。

「うわぁ……っ!」
 思わず声を上げる。
 視線の先には零れ落ちそうな程の星達(さすがに言い過ぎかな)。街の中じゃ見えない天の川まで、はっきりと肉眼で見ることができた。
 少し離れた場所で、先輩のお父さんが夜空に見える星座について解説をしている。
「どれが夏の大三角かわかるー?」
 先輩が近付いてきてそんなことを尋ねてくる。
「そりゃわかりますよ。すごく目立つじゃないですか」
 そう答えて、夜空に浮かぶ大きな三角形を指差した。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
「大丈夫? それ何かしらの著作権に引っかからない?」
「夏の大三角の星挙げただけですからー!」
 先輩が私の言葉に補足をする。
「あれがはくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガ。それで、このアルタイルが彦星、ベガが織姫。ちなみにデネブはカササギと言われているよ」
「カササギ?」
「カササギは織姫と彦星の為に天の川に橋をかけてあげる役だよ。ほら、はくちょう座の翼の部分が天の川を跨がるようにかかっているでしょう」
「でもはくちょうなのにカササギ。しかもデネブというかはくちょう座全体使ってる」
「不思議だね」
「夏の大三角関係というわけじゃないんですね」
「残念ながら……。でも君が望むなら、君が織姫、君の好きな人が彦星、そして私間男デネブで物語を作るよ!」
「何の話してるんですか何の。ていうか間男て、あなた女でしょ」
 ちらりと顔を上げ、私にとっての彦星を見る。あくびをしながら眠そうに空を見上げていた。

「あーそうそう。今日ここに来たのは星座や天の川見る為だけじゃないんだ」
 先輩がそう言った時だった。
 天の川を切り裂くように、一筋の光が流れ落ちたのは。
「あっ! あれ、流れ星!?」
「そー。ペルセウス座流星群。極大の時期からは少しずれちゃってるけど、ここって結構流れ星見えるんだよね」
 夏の大三角から意識を逸らしてみれば、あちらこちらで流れ星が流れていた。
「願ってみれば? 彦星といつまでも一緒にいられますように、とか」
「何言ってるんですか……」
 先輩の言葉に少し照れながら、祈った。
 いつまでもこんな時が続きますように。彦星だけじゃない。これだけたくさんの星があるんだ。みんなといつまでも一緒にいられますように。

「ところで、君がこと座のベガ、君の好きな人がわし座のアルタイル、私がはくちょう座のデネブだとしたら、どの星座の星にみんなを当てはめる?」
「えぇー……? 私そんなに詳しくないですよ」
 わいわいと、楽しい夜は更けていく。


『星座』

10/5/2023, 8:22:50 PM