【夜景】(小説)
貴方と見た、この街の夜景。仕事が終わった後に二人で、欠けた月を見ながら色んな事を話した。街での出来事や仕事であった事とか。私ばかり話していた気もするけれど。今は同じ街の同じ場所で、同じ夜景を見ている。以前と違う点と言えば、月が満ちている事と彼女がいない事くらいだ。彼女がいれば月なんてどうでもよかった。一人で見る綺麗な満月は、私にとって痛いくらい皮肉に感じた。
「私はこの街の剣士なので、もちろん街を守らなければなりません。それでも、貴方のことも守ってみせます。」
こんなに自信ありげに言ったにも関わらず、約束を果たすことは出来なかった。この時、彼女は頼もしいですねと笑った。あの笑顔を、私は守れなかったのだ。
彼女が失踪したのはつい最近のことだ。事件に巻き込まれ、ほぼ助かっていないだろうとされている。私は彼女のことをまだ何も知らない。夜空を見上げながら数週間前の事を思い出す。彼女が五体満足で帰ってくることを願って、流れ星の到来を待つ。それまで早口の練習でもしておこうか。
9/18/2024, 6:02:23 PM