後悔しているのは、君の背中を押したこと。
崖っぷちに立っていた君の、小さな背中を押してしまったこと。
その行為によって、君とのお別れの時が訪れた。
君は、崖から真っ逆さまに飛び降り、捨て身の猛攻で彼にアプローチして、その恋を手に入れた。
見れば、君の背中に生えた翼は、天使のそれと寸分違わない。
君は生まれ変わったんだね。
僕のアドバイスを真に受けて、僕の応援に励まされて。
君の背中を押してしまったばかりに、僕は君の隣にいられなくなった。
君の力になりたいなんて、思ってしまったばかりに。
こんな優しさはいらなかったのか。
崖から飛び降りるリスクを伝えて、優しく肩を抱いて崖から引き離せば良かったのか。
いっそのこと、崖下で君が玉砕されれば良かったのに。
その美しい翼をもがれ、惨めな敗者となって僕のもとへ戻ってくれば良かったのに。
思えば、もともと崖なんか無かったのかもしれない。
その縁から一歩踏み出すだけで、君は彼と結ばれる運命だったのかも。
…いや、運命なんか信じない。
すべては動き出す勇気、なのだろう。
それが僕には無かった。それだけのこと。
君と同じように崖っぷちに立っていながら、その一歩を踏み出せなかった。
誰かが背中を押してくれたらなんて、都合のいいことばかり考えて。
もう、君の背中を押したことを、後悔するのはやめよう。
君の幸せそうな笑顔。それが教えてくれた。
もう、何をあがいても無駄だってこと。
僕にだって、あの翼を手に入れることは出来るんだってこと。
崖下は遠く霞み、着地点は見えない。
そもそも、地上に降り立つ日は来るのだろうか。
それでも、僕は宙に舞う。
落ちていき、息が苦しくなって、もうダメかと思った矢先に、背中がムズムズとしてきて、僕の背中に小さな翼が生えてきた。
感覚で分かる。
まだ羽ばたけないけど、きっといつか、地上で玉砕する前に、大きく羽ばたいて飛んでゆく。
あの大空に向かって。
2/10/2025, 1:24:56 AM