(一年後)
一年後。
君は暗闇の中で一人、瞼を開けます。狭くていた窮屈で、息苦しい。でも、とてもあたたかい、そんな場所です。
ほら、思いきって手を、足を、伸ばしてみましょう。あなたが思っていたよりも、とても柔らかい、薄い壁です。
——聞こえますか? 壁の外で、あなたの大切な人が、嬉しそうに笑っていますよ。
八年後。
あなたは小さな体にはとても見合わない、大きなランドセルを背負って、目をきらきらと輝かせているのでしょう。でも、少しだけ、不安に襲われる時があります。
大丈夫です。あなたはあなたが思っているよりも、賢くて、強い子です。あなたのその眼差しは、どんなに暗い、苦しい道も、明るく照らすことができます。
安心してください。どうしても辛くて、涙が溢れ出しそうな時には、私が必ず後ろにいます。恥ずかしがらずに、背中を預けてください。
でも、振り向いてはいけません。辛いこと、苦しいことから、目を背けてはいけません。大丈夫。その時はきっと、私も一緒です。
その大きなランドセルが、幸せな思い出でいっぱいになることを、心から願っています。
何年も、何年も、何年も経って、あなたは私の手が届かないところにまでいってしまうのでしょう。たくさんの、色とりどりの思い出を背負ったあなたの背中は、わたしの支えが要らなくなるくらい、大きく、たくましくなりました。
それとは裏腹に、私の体はあなたよりもずっと弱く、小さくなってしまいました。もう、あなたには追いつけない。それでも、離れたところからでも、あなたを応援して見せますから。
どうか、私があなたを置いていってしまうこと。お許しください。わがままですが、その時は、あなたの目からこぼれる涙よりも、傷ついた心が癒やされ、あたたかく包まれるような笑顔が見たいです。
いつかあなたが私と同じように、永遠に歩みを止める時。あなたの周りが幸せで溢れていますように。
最後の、お願いです。
一年後。
あなたの、儚げで可愛らしい、それでいて、元気いっぱいな産声を。
私の腕の中で、聞かせてください。
5/9/2023, 10:02:55 AM