祈りの果て:
あ、と思った。
久々に乗った電車で懐かしい顔を見た。会うことはおろか話すことさえほとんどなかったが、確かに面影を感じる。
これがたとえば初恋の相手だったり、そうでなくても何か思い入れのある存在だったりしたら、今とはまた違った感情を抱いていたかもしれない。
話し掛けようか?いやいや人違いかも。もし向こうから声をかけられたら?まさか。なんて思っていただろうか。
ただの顔見知り。たったそれだけでも、わずかでも縁のあった人物と日常の隙間で人知れず再会を果たしたような感覚がどこかこそばゆい。
実は向こうも気付いていたかもしれないし、やっぱり何も気付いていなかったかもしれない。どちらにせよ目的の駅に着けばきっと、このまま互いに各々の日常に戻るだろう。
胸の奥でじわりと滲むノスタルジーに思いを馳せ、今は何をしているかも知らないかつての同胞や、これから出会うかもしれない誰かの幸福を願うような一瞬が、いやに穏やかだった。
11/14/2025, 1:00:20 AM