箱庭メリィ

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秋の午後。
14時45分。
昼食で満たされた腹もこなれてきた昼下がり。
私は温かい日差しの差す窓辺で、読書をしようとしていた。
読みかけの小説。3分の2を過ぎた今、そろそろ佳境だろうか。
お気に入りの紅茶を淹れて、小さなテーブルにはクッキーを添えたりなんかして。
正に雑誌や漫画で見るような『丁寧な暮らし』の一部を真似てみる。
窓辺の直射日光から少し影になるところに置いた椅子に腰かける。
小説のしおりを挟んだページに人差し指を挟んで、本の世界に浸る準備をする。

さて、晩ごはんを作る時間まで、少し現実からの逃避行をしよう。


/7/12『心だけ、逃避行』




◇今回は絵本チック


ぼくはカエル
この国で一番のジャンプ力
国の端から端まで跳ぶことの出来る脚力の持ち主

もちろんみんなぼくに憧れを持っている
女の子たちにはモテるし
周りもぼくには敵わないと思っている

ぼくは鼻高々だったよ
あの日 あの鳥が来るまでは

ある日 いつものように丸い空を見上げていると
空を半分覆ってしまうような
黒い何かがちらついた
それは自分をカラスという鳥だと言った

「あんたがうわさのカエルかい?」
「なんだ、この国の外まで、ぼくの名前は有名なのかい?」
「はははっ、有名だねえ。井の中の蛙ってさ」
「井の中の、なんだって?」
「世界の広さを知らずに自慢ばかりしている、馬鹿ってことさ」
「ぼくがばかだと? 無礼なきみは一体なにものだ!」
「ああ、馬鹿だね。おれの存在を知らないし、ウサギや他の動物の存在も知らないのに、自分が一番だと威張っている」
「ウサギってなんだ」
「そう易々と教えてたまるか。あんたは世界も知らない上に、危機感ってもんも足りないようだ。さすがは井の中の蛙。世の中のことを何も知らずに自分が一番だとふんぞり返り、毎晩下手な歌を響かせているだけはあるな。うるさくて眠れないと、他のやつらが言っていたぞ」
「失礼な、それはどういう意味だ! ぼくはこれでもこの国で一番、美声で勇敢で名が通っているんだぞ!」
「そういうとこさ。おれに対してまでその態度は無謀ってもんさ。今はこうして話しているが、あんた、おれにいつ食われてもおかしくないんだぞ」
「なんだって? きみはぼくを食べるのか?」
「カラスは何だって食うさ」
「夜闇のような姿のきみは、カラスというのか」

カラスは「これは気まぐれだ」と言って
ぼくを掴んで空まで連れて行った
空は丸くなくどこまでも果てしなく広がっていた

ここは狭くて暗くてじめっとしてて
世界の一端でしかなかったことを
狭い空の外を見たぼくは思い知った


ぼくのいた国は『井戸』というものだとカラスは言った

「ウサギや他の動物を見たきゃ、世界を回ってみるんだな。怖けりゃ井戸に戻んな」

カラスはそう鼻で笑って飛び立って行った
ぼくは悔しくて口を膨らませた

ぼくは世界を見てみたい
ぼくより高く飛べるやつを見てみたい

だからぼくは旅に出ようと思う
このまま『井戸』に降りずにこの場所を出て
あいつの言っていたやつらを
この目で見てやるんだ


/7/11『冒険』

7/11/2025, 2:17:31 PM