NoName

Open App

どうしても欲しかった
玩具の指輪セット
12個セットで全部形と色が違って
キラキラしてて
中でもひときわ大きなピンクのユニコーン
あれがどうしても欲しかった
玩具売り場で、指輪セットを
じっと見つめる私に気づいて
あなたは言った
これが欲しいの?
あなたは幼かった私の目線に合うように
しゃがみ込んで言った
どうしても欲しいものなの?
本当に?
あなたの少し悲しげな眼差しに私は
やっぱりいらない、そう言った
そう言えばあなたが安心したように
頷くことが分かっていたから

「やだ思い出しちゃった」
不意に昔の事を思い出して私は
滲んだ涙をティッシュで押さえた
あんなに昔のささいなやりとりなのに
今でもそれは、私の胸の奥に潜り込んでいる
思い出すたび、苦い気持ちまで蘇る
あなたとは、そんなことばかりだった
あなたがよく私に言った言葉
それはどうしても欲しいものなの?
どうしてもやりたいことなの?
よく考えて、ちゃんと考えて
迫るような真剣さで、あなたは言った
そう言う時のあなたはいつも
“正しい親の顔“をしていて
私は自分の間違いを
叱られているみたいだった
いつしか私は、自分の願いも思いも
押し込めるようになった
それは多分
あなただけのせいじゃないけど


「あらあらどうしたの、キラキラお目目から涙がこぼれ落ちちゃってるわよ。まるで流れ星じゃない!」
私の隣でロナが言った。
「ちょっと昔のことを思い出してたのよ」
「やめてよ昔のことだなんて。私たちの過去なんてそりゃもう酷いんだから。誰とも口を聞いてもらえなくて、教室の隅で俯いていた地味な男の子のことなんて、私思い出したくないわよ」
「あんたにもそんな時代があったの? 今じゃ歩く宝石箱みたいにゴージャスなのに、笑えるわね。私も同じだけど」
「バカね、ユニコーン。雨があるから虹がかかるんじゃない」

私は鏡を見た
今夜の私はユニコーンだ
完璧なメイクアップで私は生まれ変わる
一番ドラマティックな変化を遂げるのは、目
アイホールにくっきりと線を入れて
カットクリースは虹色
ラメをたっぷりつけて銀河みたいに輝かせる
唇は熟れた禁断のフルーツ
男たちが思わずしゃぶりつきたくなるような

私が初めてマニキュアをして
リップをつけた時、あなたは
一言では言い表せないような顔をしていた
傷ついたような諦めたような
それが私には悲しかった
ごめんなさい
でもどうしても
どうしても
私はこうじゃないと生きられないの


巻毛スタイルの虹色ゴージャスウィッグをつけて、仕上げにユニコーンの角を装着する。
隣でロナが、バカみたいに笑い転げた。
「あなたのヘアスタイル、綿飴工場が爆発したって感じね!」
もう少しでショーが始まる。
鏡の中の私たちは、派手なメイクとけばけばしい衣装に身を包んでいる。
ロナが私の肩を抱いて言った。
「みてよこのお洋服! ただの布切れじゃないわ。虹色の輝きを放ってる。私が蛾だったら、間違いなくあなたの光に吸い寄せられちゃうわ。やあねえ、もう泣かないでよ。せっかく時間をかけて作り上げたゴージャスな顔が台無しになっちゃう! 今夜あなたはユニコーンなの。あなたを見た人は、その美しさに人生の悩みなんか全部吹き飛んじゃうわよ。だってあなたはたくさん雨の日を経験して傷ついて悲しんで苦しんできたんだから、そりゃもう眩しいくらいにオーラを放って輝いてる。だからもっと自分を愛してユニコーン」

5/20/2025, 1:32:14 AM