『待ってて』
その言葉が私はいつも嫌いだった。
無責任で、相手に一方的に負担を押し付ける言葉。
待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかねとは太宰先生の言葉だが、待つ身がつらいに決まっている。
だから口にしないと決めていた。
診察室の扉を閉め、壁に背を預けて呟く。
「余命1ヶ月……か」
浮かぶのは彼女の顔。愛らしく、幸せに笑う顔。それでも
「もう、会えないな」
考えるのは彼女のこと。どうすれば、悲しませずにすむだろうか。どうすれば、彼女の中の私を死なせずにすむだろうか。
私以外が彼女を幸せにするなんて許せない。それでも、私はいなくなる。それでも、彼女には幸せでいて欲しい。だから
私は彼女にメッセージを送ることにした。震える指、涙でまともに反応しなくなる画面。それでもなんとか時間をかけて、ゆっくりと書き込み、送信した。
『待ってて』
あぁ、これは、待たせる身もつらいものだな。
2/13/2023, 7:12:34 PM