その大きな木は毎日変化を楽しんだ。
森の奥には不思議な木がある。毎日姿を変える洒落た木だ。夏のある日にその木を見れば優しい桜が咲いている。春は紅葉冬には青葉が。何にも囚われていないその木が僕は少し羨ましかった。
ある日その木をおとずれたら見たことの無い姿になっていた。健康的なほど鮮やかな青い葉に黄色の大きな実。なんだか美味しそうだった。
だから僕はその実をひとつ取って齧ってしまった。
味より先に匂いが伝わってきた。言葉で言い表せないような清々しくどこか独特な匂い。それには人を惹きつける力があるような気がした。
そう感じたのも束の間。激しい苦しみが僕を襲った。匂いが濃くなるにつれて苦しみは増していった。
そして僕は黄色い果実の匂いに包まれて死んだ。
木はそれ以来姿を変えることはなかった。
12/22/2022, 4:38:26 PM