わをん

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『私の名前』

私の家系を遡るとこの国を治めていた王家にたどり着くそうだ。なので子々孫々に代々受け継がれる名前というものがあり、私の名前にも・で区切ったり=で繋げるような長ったらしい本名がある。ちなみに呼ばれたことも声に出して名乗ったことも一度もない。
「お母さんは本名名乗ったことある?」
「あるよ。むかし魔法少女だったときにね」
お母さんの言うことは本当かウソかいつもわからない。お父さんに聞くとあの頃のお母さんは強くて可愛くてカッコよかったなぁ、と返ってくるけれどネットで探してもそういう話は二次元のことしか出てこない。
「あなたもいつかそういうときが来るかもしれないけど、なんとかなるから」
ためになるようなならないようなアドバイスを聞き流して学校に行くために玄関を開けた。昨日まで平和そのものだった世界がなんだか少しおかしいような気がした。
「そこのお嬢さん。世界の異変に気づきましたかな?」
声の方を振り返るとぬいぐるみのようにかわいい二頭身の生き物が格好をつけて佇んでいた。
「いやはや、さすがあの方の娘さんだけある」
開けたままだった玄関から家の方を見るとお母さんが旧知の知人を見つけたときのような顔で驚いていた。
それからの私は本名を名乗って世界を変えんとする巨大な悪からみんなを守る戦いに身を投じて行くのだった、というところで目が覚めた。
「おはよう。早く学校行かないと遅刻するわよ」
「今日はちょっとお寝坊さんだね」
リビングでお母さんとお父さんがいつものように声を掛けてくれる。まだ夢の余韻が残っていた私は、頭に浮かぶ質問を投げかけようかどうかを迷っていた。

7/21/2024, 12:19:34 AM