お題:時計の針
ほてった身体が掛け布団の冷たさで落ち着いていく。
隣で一緒に布団にもぐっているレンさんを見上げた。
「あと何時間いられる?」
「三時間くらいかな」
大きな手で頭を撫でられる。その心地よさに安堵してしまいそうになるけど、三時間後にレンさんがいなくなってしまう事実は変えらない。時間が止まればいいのにと思う。
「どこか行きたいところない? 君と会うときはいつもこういう場所ばかりだから」
「こういうとこも嫌いじゃないよ。景色が綺麗だし」
「それならよかった」
剥き出しの肩に触れるシーツは上質なようで、とてもなめらかな感触だ。
私がレンさんについて知ってることは多くない。会うのはいつも広くて高い階の部屋だから、お金持ちなんだと思う。あと顔がよくて、意外と身体はがっしりしてる。こんな非の打ち所のないレンさんを私が一人占めできてるなんて信じていない。私みたいにレンさんと関係を持つ女はきっと他に何人もいる。ただ、それを問いただす勇気はなかった。
存在が溶けてしまいそうなほど眠い。まぶたを擦っていると、穏やかな笑い声が降ってきた。
「眠かったら寝ていいよ」
「やだよ。せっかく一緒にいられるのに寝たらもったいない」
「隣にいるから大丈夫だよ」
ずっとは隣にいないくせに。レンさんは嘘つきだ。思うけど、それを言ってしまったら私はレンさんを縛る面倒臭い女になってしまう。レンさんとの関係を続けるためには聞き分けと都合のいい女でいなければならない。
ちっちっ、と時計の針が小さく時間を刻む音が聞こえる。この音を気にすることなくレンさんと一緒にいられればいいのに。そんな日が来ないことを知っていながら、私は何度も同じことを願ってしまうんだろう。
時計の針の音から逃れたくて、わたしはレンさんに抱きついた。
2/7/2026, 5:18:38 AM