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思えば、親友が涙を流したのを見たのは、初めて見たその時一回きりだったかもしれない。

当時、私は技術面ではなく、様々な込み入った理由があっての部長に選ばれてしまったことがある。また、優勝連覇を目指していた。

親友も副部長としてチームの皆を引っ張ってくれた。私はどちらかというと、一歩引いて皆を俯瞰的に見守り、何かあれば自ら声掛けてコミュニケーションを取るタイプである。

ただ、肩書きだけとはいえ自分には荷が重すぎた。
相談はされやすいけれども、自分は深刻であればあるほど誰かに相談するといったことを昔からした事がなかった。相手が家族でさえも、今でも深い相談はできないでいる。

大会が目の前まで迫っていたある日、練習中に親友の姿が見えないのが気になった。トイレでも行ったのかと様子見にいくと、顧問の先生と2人で突っ立っていた。

私からは背中を見せていてわからなかったのだが、側まで近寄ると親友は泣いていて目が赤かった。

「えっ!どうして泣いてるの?何かあった?」

顧問の先生から、口を挟んで彼女に「話していい?」と許可を得てから、話してくれた。

「あなたが、ここ最近ずっと笑顔が無かったんだって。」

「………え?」

何を言ってるのか、その意味がすっと分からなくて固まってしまった。笑顔が無い。

「…えっと、友達が?」

「彼女はその事で、自分があなたの力になれていないことが悔しくて泣いてるんだよね。」

親友は一言もこぼさない。小さくコクンと頷いた。

「私…私、笑えていなかったんですか?」

ハッと我に返ったような気分だった。自分では、全く気付かなかった。私、いつからなのか笑顔が消えてたんだ-

そして、気が強くて明るい親友が泣いたのを見たのも初めてだった。

その事があってから、手の空いた教師が2人来て3者面談することになった。
カウンセリングのようなもので何があったのかと色々と聞かれたが、親友の涙を見るまでは自分でも自覚は無かったのだから、原因も何なのかも実のところは分かっていなかったのだ。

きっとキャプテンのプレッシャーと、後輩からの悩み相談を一緒に背負ってしまったのもあり、知らず知らずのうちに自分に余裕が無かったのだろう、ということになった。

親友には感謝している。自分でも気付かなかったことを、彼女には見抜いていて、そして自分事のように泣いてくれた。

その事を思い出すだけでも、心がいっぱいになって涙が出てくるのは歳のせいでもあるだろう。

10/11/2023, 7:06:58 AM