もう少し早ければ、早く気づけたなら未来は変わっていたのだろうか。
もし、戻れるなら俺は君を突き放してでも守るのに。
願いと共に星が溢れる。
君を失ったあの日から、消えたはずの星が、、。
波の音と潮の香り、、、懐かしい。
燦々と降り注ぐこの暑さも今は心地よくさえ感じる。
「おーい、そこで何してるの?」
聞き慣れた声と軽やかな足音。
間違えるはずがない。
「、、、ゆき」
夏に似合わない溶けてしまいそうな白い肌に、海風によって煽られる白いワンピース。
そして麦わら帽子と少しムッとする君。
「まーた、こんなとこで寝て!熱中症になっても知らないんだからね!」
「、、、悪かったよ」
「げ、何も泣くことないじゃない!反省してるのわ分かったから!」
「?」
ゆきが、何を言っているのか分からなかったが、砂に落ちる雫に自分が泣いているのだと気付かされる。
「わ、私も言いすたわ。悪かったわよ」
「はっ、はは」
怒ったり焦ったり落ち込んだり色々な表情の君が見れて嬉しい。
「ごめん、悲しい夢を見てたんだ。ゆきのせいで泣いたんじゃないよ」
そういうと君は安堵し表情を和らげて見せた。
変わらないな、昔も今も。
優しい所も、正義感が強い所も、打たれ弱い所も。
全てが愛おしい。
でも、だからこそ、今世では彼女を突き放さなくてはいけない。
万が一にも僕の妻になんてならないように。
目を閉じればすぐにでも蘇ってくる。
あの日の光景。
いつも通り帰った家に血だらけで横たわるゆきの姿。
そしてそれを前に呆然と立ち尽くす僕の親友の姿。
「ゆ、、き?」
それを見てからの記憶は曖昧で、気づけばサイレンの音と、血まみれになった自分。
そして白い布をかけられたゆきの姿。
ゆきがいなくなってから、今までどう生きてきたのか、自分がどんな人だったのかそれすら思い出せなくなるような色のない日々を送った。
「、、、ゆきさんが亡くなってから2週間未だ犯人を捕まえられておりません」
「、、、そうですか」
犯人は知人だったため情報提供は惜しまなかった。
役に立つのならばと同じ質問も何十回何百回と説明した。
しかし一向に犯人が捕まることはなかった。
「あの、こんな時に失礼だと思いますが、はるさんちゃんと食べられてます?」
「、、え?」
事情聴取に協力して警察署をでて帰路に着く。
そこで老舗のコロッケ屋の定員に声をかけられた。
「どんどん痩せていくはるさんが心配で、、」
「大丈夫ですよ、ご心配おかけしてすいません。」
では、失礼します。
そう言うと定員はもどかしそうに俺を見送った。
足が重い。
やはり定員が言った通りまともに食べられない日が続いているからか体力が無くなっていくのを感じる。
やっとの思いで家までたどり着くが、どうやらいつもと様子が違う。
家の鍵は空いており、家の電気は着いている。
帰ると連絡をするとゆきはいつもこうして俺を待ってくれていたな。
「、、、ゆき?いるのか?」
「、、、」
「、、なんてな。」
きっと電気も鍵も俺が忘れて出たに違いない。
早く休もう。
「!?」
「、、久しぶりだな」
目の前には親友榊の姿があった。
あの日と同じように黒いジャケットを着てフードを深く被っている。
「、、おまぇえ!」
自分からこれだけの怒声が出るものなのだと驚いた。
そして、俺は気づけば榊に覆いかぶさっていた。
「ふざけるななんで、なんでゆきを、、!!!」
「お、お前のせいだ、全部お前のせいなんだ!
俺がゆきちゃんと結婚して幸せになるはずだったんだ。なのにゆきちゃんはお前を選んだ。俺のものにならないゆきちゃんなんていらない。」
「は!?そんな事のためにゆきを殺したのか!??」
「お前さえいなければゆきちゃんは俺のものになっていたはずなんだ。お前さえいなければ」
頑なに繰り返すお前のせいと言う言葉。
それは言われずとも俺が1番わかっている。
俺がもっと早く帰っていれば、もっと注意深く日頃から気をつけていれば、そんな後悔が次々と浮かんでくる。
榊はしばらく身悶えしていたが、ピタリと動きを止めた。
「はは、は、はははははははは」
「、、、何がおかしい」
「知ってたか?ゆきちゃんお腹に赤ちゃんがいたんだよ。検査して確かだったらお前に言うつもりだったんだろうな。」
「っ!!」
「お前との子ってのがよぉ、許せなくてよぉ、でもゆきちゃんの子だ可愛いに決まってるだろ?だから見てみたくてよ取り出したんだ」
「、、やめろ」
そう言って榊は身振り手振りで説明をする。
「でも真っ赤でなんにも分かんなかったなぁはははははは」
「やめろって!!!」
「ははははは!いい気味だよっ!!」
そう言って榊は身を翻し俺を殴った。
「ゔっ」
続けて、鉄製の傘立てを手に取り何度も何度も俺を殴った。
頭の周りをチカチカと眩しいほど星が舞う。
そしてそれは段々と溢れてついには降っていった。
あの日と同じように鉄くささと、ベタつく赤いものをみながら俺は意識を失った。
そして願った。
ゆきを守らせて下さいと。
「あー、もうやっと目を覚ました!」
「ゆき、、、」
「ゆき、、じゃないわよもう!熱中症になって倒れたの覚えてる!?」
「あー、、、うん」
「適当に返事しない!」
「、、はい」
「はい、氷嚢!家まで取りに戻ったんだから!」
「ありがとう」
「早く元気になってもらわなきゃ、今日私に言いたいことがあるのよね?」
あぁ、そうだった。大学卒業と同時に上京することを決めた。
だから、地元を離れる前にゆきに思いを伝えたくて、
話があるから時間をつくってもらったんだ。
前回は、上京することを説明して、一緒に未来を歩んでいきたいと、まるでプロポーズのようなセリフを言ったっけ。
ゆきは驚いた顔を見せたものの、1つ2つと涙を零しはい、と大きく頷いてくれた。
でも、俺は、ゆきを守れなかった俺にはそれを言う資格なんてない。
だから上京することだけ伝えてお別れしよう。
そう決めた。
「で、話って何?」
最初に切り出したのはゆきだった。
だから俺は上京するということを淡白に告げた。
ゆきは驚くかと思ったが、そっかと寂しそうに告げた。
「ねぇ、少し歩かない?」
「あぁ、」
俺たちは夕日が沈む頃、浜辺を歩いた。
「私、はるが好きだよ」
「、、え」
「はるが思ってるよりずっと」
「だからね、ちょっと悲しかったんだ、今回は一緒に未来を歩んでいきたいってちょっとクサイセリフ言ってくれないんだって」
「それって」
「私3回目なんだ、タイムスリップするの。」
そう言って先を行くゆきはくるっとこちらを向く。
その顔は笑っていたが苦痛を隠しているようにも思えた。
「1度目は普通に榊くんに殺されちゃって、2度目ははるがいない生活。それなりに楽しかったし、相手のことも好きになってたと思う。でもやっぱり心のどこかにはるがいて、なんか心にぽっかり穴が空いているような気がしてた。まぁ、結局2度目も死んじゃうんだけどね」
「そして3度目が今。チャンスだなって思ったの。
やり直ししていいんだって。だったら私の思い残すことのないように精一杯生きてやろうってそう思った。」
「好きだよ、はる。私と一緒に未来を生きて下さい」
でも、だって、そんな、否定の言葉ばかりが頭に浮かぶ。
俺のせいで死んでしまったゆきは、俺の目の前にいて俺と人生を歩みたいと言ってくれている。
「君を守れるくらい強くなるから、もう一度一緒にいて欲しいと願ってもいいかな」
「、、、当たり前でしょ」
あの日の君は救えなかった。
でも今度こそ、君を救って見せる。
そう固く決意した。
3/16/2026, 7:29:43 AM