青波零也

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 止まない雨はないという。
 けれど、僕の心には長らく雨が降り続けている。
 その結果僕の中の不安も焦燥もわだかまりも何もかもを押し流してくれるならいいが、閉ざされた空間に降り続く雨は、ただただ澱んだ思いを飲み込んだ暗い池を作り出すばかり。
 どうして足元ばかり見ているんだ、とあいつは笑うだろうか。
 いつかの仕事明けの朝、ちょうど雨が上がったばかりの空を指差して、あいつは朗らかに言った。
「ほら、見ろよ、虹が出てる!」
 その言葉に目を上げれば、確かに見事な虹がかかっていた。僕の記憶の中では、初めて見る自然の虹だったかもしれない。
 今もなお、その鮮やかな色は僕の脳裏に焼き付いている。
 僕の心の中にも、あの虹が架かる日が来てくれるのだろうか。
 でも、あいつはもうここにはいないから、雨が止んで虹が出たことにも気づけないかもしれないな。
 今日も、雨は止まない。


20250223 「君と見た虹」

2/22/2025, 11:35:08 PM