ピンピコ

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惚れた目には糘痕も靨

磨りガラスだったガラスを拭く彼女も、霜を吸った布巾も、もう見れない。そうなってから随分経った。
このツンと鼻を刺す匂いにももう慣れた。
「初日の出、綺麗だね」
毎年君は同じセリフを吐く。
...そんなこと、思ってもないくせに。
暫く僕は返事をできないでいた。
腕時計の蓋をいじりながら彼女は微笑んでいる。
変わらぬ返事をわかっていながら、それでも僕の答えは変わらない。
「僕は、憎らしいよ。」
日は、必ず昇る。
変わることなく昇り、ひとりでに輝き続ける。
「大丈夫。いつか君は大丈夫になるよ。」
「ならないよ。」
「なって、欲しいなぁ。」
「...なりたくないから。」
「...そっかぁ。」
この進む一秒が憎い。
昨日よりも水の入ったペットボトルが重い。
彼女は僕に睨まれた腕時計を知ってか知らでかさすり続ける。
僕が誰よりも誇れる眼になると誓ったのに。
あと、一ヶ月。
僕もきっと変わってしまう。
それが一番、憎い。

1/1/2025, 9:20:57 PM