John Doe(短編小説)

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ジェンキンス家の無邪気な兄妹


朝、廊下の隅で我がジェンキンス家の愛犬のトビーが、死んでいた。
没年15歳。白と灰のシベリアンハスキー。老衰死。
トビーは僕が生まれた年にやってきた。

「大型犬にも関わらず、本当に良く長生きしたよ」と、パパは目に涙を浮かべて冷たくなったトビーを撫でた。あの滅多に涙を見せないパパが泣きそうな顔をしているのが珍しかった。

「トビーは虹の橋を渡っていったのね」と、ママは泣きながら僕より三つ年下の妹のシェリーの肩をさすって抱き寄せた。妹も泣いていた。

おじいちゃまもおばあちゃまも、みんな泣いていた。僕は、ぼんやりとトビーの亡骸を見ていた。
家族のそれぞれが最後の別れの言葉をトビーにかける。妹が「これまで、私たちと遊んでくれてありがとう、トビー」と言ったのを聞き、僕はとうとう肩を震わせて泣いてしまった。僕は「さようなら」とだけ言って、動物霊園のトラックに乗せられるまでトビーを見ていた。

昼ご飯を家族で食べた後、僕は妹を呼び出した。
「公園へ行こう」と言うと妹と僕は家を出た。
「兄さん、私…」妹が何か言いかけたから、僕はそれを制止した。「公園につくまで、こらえるんだ」とだけ言って、二人は黙って歩いた。

公園のブランコにそれぞれ座ると、とうとう僕も妹も大声で笑いだした。腹の底から思いきり笑ったせいか、他に遊んでいた子供たちが、いっせいにこっちを見てきた。それでも、僕らはお構い無しにゲラゲラヒーヒーと笑った。

涙を拭いながら、「お前、『今まで遊んでくれてありがとう…』はないだろ! もう吹き出してしまうかと思ったぞ!」
「兄さんこそ、ぼーっと突っ立って! みんなして泣いて、ほんとに面白かったもん!」
「トビーのヤツ、最後まで僕らの言い付けを守ってたなあ」
「うん! 『言うこと聞かないと殺しちゃうぞ』ってずっと言って、芸まで仕込んでやったね」
「ああ。これが軍隊なら名誉勲章ものさ!」

僕らにとってトビーは、単なるオモチャに過ぎなかった。
家族のみんなにとっては、どうだったのか知らないし、そんなのどうだってよかった。

「次のオモチャが欲しいな!」と、妹はブランコをこぎながらニッコリと空を見て言った。

9/10/2023, 3:32:57 PM