大狗 福徠

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誰しもが小さな思いを心に抱えて生きていると思う。
あいつがいなけりゃ、あの子のために、自分だけが。
そういった小さな思いで済めばいいものたちは時として爆発してしまうんだ。
赤く染まった足元を見る。
冷静に俯瞰する必要がある。
俺は何をしたのか。
目の前の彼を殺した。
ここはどこなのか。
別棟の教室だ。もう使われていない。
凶器は何か。
机の角だ。突き飛ばして、あたりどころが悪かった。
彼は何者なのか。
俺の親友で、好きな人。
なぜここに二人でいたか。
俺が来てほしいと言った。
なぜ呼んだのか。
告白しようとしたんだ。
なぜ殺したのか。
逆上だ。怯えた目で見られたことが耐えられなかった。
そうだ、小さな思いだったんだ。
少しの恋心。大きな信頼。俺は思い上がったんだ。
彼はそういった話を意図的に避けていた。
分かるはずだったろう。それが何故なのか。
ひそかな思いと隠してしまえばよかったんだ。
それならば、いつまでも笑いあえていたろうに。
まだほのかに温かい彼を抱きかかえる。
血が流れ出て、俺を染めていく。
このまま俺も、後を追ってしまおう。
幸い別棟は六階建て。下はコンクリートだ。
このまま、彼を抱いたまま、それくらいは。
またひそかな思いが生まれてくる。
それだけはしてはならない。
償うんだ。俺が殺したんだ。
失敗しただろう、その小さな思いのせいで。
ひそかな思いを殺せ。今、彼にしたように。
警備員が来る。現場を、彼を、俺を見つけるだろう。
ひそかな思いだったものを見つけるだろう。

2/20/2025, 10:30:30 AM