薄墨

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休憩の時、みんなで話すのが好きだった。
話す内容はくだらないことが多かった。
学校の話とか、先生のモノマネとか、流行ってるゲームのこととか。

他の学校の校区の子もいたから、いろんな話が聞けて、楽しみだった。

小学生の頃の、習い事の話だ。
年齢も、通っている学校も、家族構成も、過去のこともみんなバラバラだったけど、あの日僕たちは、同じ合唱団に属しているってただそれだけで、かけがえのない仲間だった。

仲間の中では、僕も普通の男の子でいられた。
幼い頃に轢き逃げにあって、母さんを後悔と懺悔の世界に堕としこみ、両親を過保護に神経質にさせて、妹に窮屈な思いをさせた僕も、仲間と一緒に歌ったり、笑ったりしてる時だけは、小学生の男の子でいられた。

ブレーキ音とかエンジン音は苦手だったけど、合唱団で歌う歌がそれをかき消してくれた。
僕たちは最強の仲間だった。

僕がその仲間に入れなくなったのは、あの日だった。
あの日、交通事故があった。
帰りのバスで。
軽い事故だった。
ちょっと掠ったくらいの。

僕はその頃、母さんや父さんに、「もう大丈夫だから」と口をすっぱくして何度も言っていた。
僕も仲間と一緒にバスでコンクール会場まで行きたかったから。
仲間と少しでも長くいたかったから。
何度も何度もお願いして、やっと父さんも母さんも頷いてくれた。

事故が起こったのは、そうやってなんとか勝ち取った仲間との居場所で座っていた時だった。

僕は。
僕は結局、パニックになった。
一人で勝手に逃げ出してしまった。
そうして、仲間からも、家族からも逸れてしまった。

僕にはあの仲間の中に入る資格はなかったのだ。
バスに乗って、仲間と一緒に移動するのは、まだ、ダメだったんだ。

母さんと父さんは先生を責めるだろう。
仲間を、友達を、妹を責めてしまうだろう。
僕がこんなことになったなら。
先生や仲間や妹のせいじゃなくても、責めずにはいられないだろう。
僕はそう知っていた。

僕は最悪なことをした。
仲間に対して。
家族に対して。

僕は失格だ。
仲間に入ろうなんて思っちゃいけなかったんだ。
今も、僕は心からそう思う。

12/10/2024, 11:04:06 PM