ななしろ

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「お願いがあるのです」

 たとえば、ぼくが旅立った時。明くる日の空はうららかで、心地よい風が花びらを揺らし、穏やかな空気が満ちた素晴らしい朝だとして。あなたは、ぼくがいなくなったことを嘆いてくれますか。
 つまらないお願いではありますが、どうか記憶の片隅に留めておいてください。それだけでぼくは、この先で己の身に何があろうとちっとも怖くありません。冷たい夜に浮かぶ星のひとつになったとしても、決して後悔はないでしょう。
 ただ、あなたがぼくを想ってくだされば。残すもののないぼくの生涯にもすこしは意味が生まれるのだと、そう思えてやまないのです。

「ですから、どうかあなただけは、ぼくの死を悲しんでください」

 それが、たったひとつの願いです。

4/4/2023, 8:02:42 AM