あるまじろまんじろう

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 鉄筋コンクリートの高層集合住宅が彼らの家であった。
 餓鬼共が生まれた当初は四階建てだったのが、増築されて七階建てにもなると、階下に住まう不憫な諸人は朝も昼も空が見えん。すべからく住民は上階に住みたがるのだけども、一部の物好きや浮浪者共は階下も階下、部屋の四半分が地下にめり込んだ最下層を新天地とし、好きこのんだ。
 細い男もその一人であった。
 蛍光灯の光が黒縁眼鏡のレンズで屈折して、虚像となった両目は大きく、ギョロリとして爬虫類じみている。耳が隠れるくらいの坊ちゃん刈りで、大根のように白くカマキリみたいに貧相な腕をしていて、そのくせ小綺麗な風体が甚だ奇妙だった。
 細い男は自らをメガネと名乗った。浮浪者でも悪人でもないが、敢えて治安の悪い地下に住みたがる物好き。そんな風に自称したのがただ二つ、餓鬼共が知っているメガネの素性で、平素より蝋人形のような無表情でもって一服する細い男は蜃気楼のように得たいがしれなかった。
 そんな男を構いに、性懲りも無く地下へ降りていく餓鬼共もまた物好きである。
 メガネはたまに本当に極稀に、煙草を分けてくれることがあって、嬉々として一本(しかくれない)を回し喫むと、これが美味いのか不味いのか餓鬼共には判断がつかん。特有の多幸感が何がために引き起こされるのかも知らん。喫煙の字も書けない未成年どもだが、決まりを破る自分はなんだか格好いい気がして、吐き出した煙が空気の気流の流れに色をつけると悪い気分はしなくて、
そんな、少年の日の思い出。
 




脳裏

11/10/2024, 3:12:59 AM