「あー、今日も可愛い」
「はいはい、贔屓フィルター贔屓フィルター」
彼女の告白をさらりとかわす。これが最近の僕たちのやりとりだった。
「フィルターなんかない!この愛は君を潰すほどなのに!!」
「そんなにでかいとフィルターは通れないな」
「スライムみたいにフィルターを押し通る!」
「想像してみろ、そんな愛怖すぎる」
表情ひとつ変えずに返していると、彼女は悔しそうに頬を膨らませる。そういえば年の離れた妹が風船みたいに飛ぶ猫の絵本を見ていたっけ。
「そうだ!フィルターごと君を包み込む!」
「発想が狂気」
同じ作者の泣いた子供の絵本もなかなかすごかったな。母親が魚すくいに行くやつ。あの独特なイラストも子供心のなにかをくすぐるんだろう。
そういえば新聞に画展開くって書いてあったな。彼女は好きだろうか。断られたら妹が喜びそうなものだけ買って帰ろうかな。
「えーっと、えーっと」
「今度画展いなかい?」
「え?」
「嫌なら1人で行く」
「行く!行くってばあ!!」
とどのつまり、僕のフィルターなんかとっくに通り越してるのに、彼女はそれに気付かない。身の回りのものは僕の物だらけなのに、全然気付かない。
「絵本、好き?」
だから今のうちに、僕の好きな物を刷り込んでおくんだ。
【フィルター】
9/10/2025, 9:22:55 AM