『好きだよ』
そんなに仲の良くない友達の誕生日会に出席した。
仲のいい友達に誘われたから。
と、言うのは口実で、片思いの女子が参加するからに決まってるだろ。
そこで配られたショートケーキ。
小皿に、銀紙と透明のシートで巻かれて、上に大きな真っ赤なイチゴが1つ乗っかった、高級店っぽいゴージャスな佇まいのケーキ。横に添えられたフォーク。
さすがに金持ちと噂の子のパーティー。
目の前の料理もご馳走だらけ。
仲の良い友達と目配せ、場違いを感じながら俺はそこにいた。
ちゃんと好きな女子の隣をゲット、そこまでは良かったけれど、急にショートケーキを食べることが怖くなった。
そうさ、この人、下品な人って、その女子に思われたくなかった。
でも、いざ、ケーキをフォークで食べようとすると、食べ方が分からなくなった。
俺って、いつもどうやって食べていただろう、そう思ったのだ。
まわりのみんなをキョロキョロ見回した。
早くも豪快に手づかみで頬張る男子もいた。スゲェー、あの勇気が俺にはない。
とにかくシートを丁寧に外した。
そして銀紙を広げて、フォークをつかんだ。
ふっと横の好きな女子を見るとイチゴをつまんでパクリと食べた。
驚いた。
この子は好きな物から食べるタイプなんだと思った。俺は最後に食べたいタイプ。それで少し相性が悪い気がして落ち込んだけど、いや違う、違うタイプだから好きになったんだと思い直して、恋の継続を密かに心で決めた。
そして、俺はフォークの刃を下にして、ケーキの細い三角形の先に突き刺した。そしてすくうように切り離して持ち上げた。
パクり。うまい。なんだかスポンジも生クリームも俺がいつも食べるスーパーで売ってるケーキとは別物だった。
俺は感動していた。
そして横を見ると、その女子は、フォークを横にして、ナイフで切るようにケーキの三角形の先にフォークを下ろしていた。それじゃケーキの高さから考えてどうやって食べるんだろうとずっと見てしまった。
答えは華麗だった。
切ったあと、今度はケーキの半分の高さにフォークを横に差し入れると綺麗に一口サイズのケーキがフォークの上に載っていた。
そんな感じで、次々食べてゆく。
これって、ケーキって、そんな感じで食べるものなの?
不思議なものを見たようで、俺も真似てやってみた。
意外と難しくなく、一口サイズで食べやすい。
それだけで、その女子を好きだけでなく、尊敬していた。
もっと、好きになった。
そして、ケーキを食べ終えて、最後のご褒美のイチゴだけになった。
そしたら、隣の大好きな片思いの女子から話しかけられた。
「イチゴ、嫌いなの?」
⋯⋯⋯⋯⋯話しかけられて嬉しく俺は舞い上がった。頭の中が一瞬、空白になった。しかも、大好きな女子に、好きだ‼️って偶然だけど、違う意味だとしても言えるチャンスがきたのだ。俺は意を決して、その女子に答えた。
「好きだよ」
「えっ?」
「☓☓だよ」
「えっ?」
恥ずかしさが勝つて、どうしても声が出なくて小声になった。
すると、
「嫌いなら、ちょーだい‼️」
ヒョイと二本の指でつまんで、俺の返事も待たずに、イチゴをパクり。
「おいしかったー、ありがとう」
満面の笑みをされたら、許すしかない。
帰り道で独り言。
嫌いなわけないじゃん。
好きだよ、イチゴも、君も。
その夜の星空は、めっちゃ多かった。
当然だけど、その恋は、告白も出来ずに終わる運命でした。
【終わり】
4/5/2025, 12:43:02 PM