空白む雨

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君の目を見つめると
 
 一枚の硝子の向こうには椅子に拘束された癒月がいた。
 手足にはベルトが巻かれ、癒月の自由を奪っている。さっきまで不自由になった身を捩っていたが、今は肢体をぐったりさせ、気絶した。
「やりすぎたか?」
 側にいた白衣を着た男が隣にいた女に話しかけた。
「いいえ、このくらいの大きさなら、もっと注入させてもいいくらいよ」
「だよな。意外と弱いんだなコイツ」
「ちょっとこずかないで。さっき呑ませた薬液が出るかもしれないじゃない」
「そんなわけないだろ。呑み込むまでちゃんと見てただろ」
 男は、モニターを眺める。
「ほら、なんの異常もない。一応は成功だぜ」
「なら、いいわ。ようやく許可が下りたんだから、貴重なサンプルを手に入れたんだから。しかもこんな美しい 子供」
「んだよ。結局は顔か」
「不細工より美人よ。私は美人が好き」
 女は言いながら、癒月の頬をそっと撫でる。
「普通に過ごしていたら、花に蝶が群がるような子になっていたかもね。眠っているだけなのにそそるわ」
「子供に発情してんのか? 今のお前、大分なキチガイだぜ」
「冗談よ」
「冗談ねぇ……お、目覚めたな」
 徐々に瞼を上げていく癒月を見て、二人は更に規定の量の薬を投与するために再び器具やらの準備を再開した。
「さあ、坊や。お薬の時間よ」
 ふと、女が言葉を切る。じいっと癒月の瞳を眺め始めた。
「おい、何してんだ?」
 男が訝しげに女に問いかける。しかし聞こえてないのか、女はまだ目を離さない。
 男が癒月を見る。既に目を覚ましていた彼の表情は虚ろで何処も見ていなかった。
 だが、男は違和感を感じる。
「おい、こいつ……」
「成功よ」
 被せるように女が言う。
「観察経過を見なきゃ、確定はしきれないけどね? でも、これはあるかもしれない。目よ、目を見てわかったわ」
 
「この子は此処でも花だったわね」
 女は歌うように男に話しかけた。

4/6/2026, 1:57:20 PM