つぶて

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 いつからあそこにいたのかは覚えてない。窮屈な箱の中。決まった時間にごはんが出てくる。それだけ。見えない壁があって、向こう側には神様がやってくる。たくさんの神様。匂いがわからないのが不気味で、じっと僕を見る目が怖くて、いつも箱の隅で震えてた。夜になれば少しは楽になれた。ビョウインの匂いの人がやってきて、僕と遊んでくれたから。でもいつも悲しそうな目をしていた。僕の頭を撫でながら、いい人に巡り合うんだよ、と言っていた。なんとなくわかってたんだ。僕は行かなくちゃいけないって。窓の向こう側に。たくさんの神様がいる場所に。
 あの時、窓の向こうの君と目が合った時、僕は本物の神様と出会った。君はその小さな両手を壁につけて、ずっと僕を見ていた。二つの丸い瞳がきらきらしていて綺麗だった。ちっとも怖くなかった。それから君は言ったんだ。この子がいい、って。奇跡を告げる声はちゃんと僕にも聞こえていたよ。
 はしゃぎ疲れた君が眠っている。大好きな匂い。毛布を引っ張ってきて、その体に掛ける。上手く広げられなくて不恰好だけど仕方がない。僕はその隣で目を閉じる。すやすやと君の呼吸が伝わってくる。あの時のことは時々思い出すけれど、こうして君に触れていればするりほどけて消える。後に残るのは守るべきものがある幸せだ。君がくれたもの、全部お返しできるといいな。

7/2/2023, 1:15:10 AM