大人
──────
「ひぃ、さむ…」
「そりゃそうでしょこんな時期に海とか」
私の一言で始まった今日のドライブデート。
ドラマで見た夜の海がどうしても印象的で、でも一人で行くのはなんだか寂しくて。彼氏に懇願したところ渋々了承してくれた。
本当はお昼から出かけたかったけど、お互いの予定が夜しか開けられなかったということで夜デートとなったのだ。なんだか新鮮な気持ちで、少し浮かれてしまう。
「砂浜やっぱり冷たいね」
「冬の夜に暖かかったらびっくりだよ」
「それもそうか」
中学生みたいな会話をしつつ、海辺に行ってみる。
月の光を反射してキラキラとした海は、テレビで見ていた以上に息を飲むほど綺麗だった。
すると突然、びゅんと吹いた風に体が押されてバランスを崩した。
うわ、ちょっと、待っ──────
「…大丈夫?」
「びっ、くりした」
海水が足に浸かる一歩手前で彼が私を支えてくれたようだ。こんな風に抱きしめて貰ったことって最近あったっけ…最近お互い忙しかったからな…と思考を巡らせていると、体がぐるんと回された。
耳に入ってきた音は、波の音ではなく私のものでは無い心臓の音だった。
「どうしたの」
「最近こうしてなかったなって」
「さっきそれ私も思った」
「…ごめんね」
「何が?」
「ここずっと、きちんと顔合わせられてなくて」
「しょうがないでしょ」
同棲もできていない私たち。
準備すらもできる余裕がなくて、連絡できる時もぼちぼち。気の迷いが相手にできてたら…と考えてしまうのは私だけかもしれないけど。
というか、夜も更けてきた頃だし明日の仕事に響くのは嫌だ、という彼の口癖を思い出した私は優しく彼から離れようと試みる。…が、更に力を強くされた。
「ん…どうしたの、そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないの」
「もう少し、このままでいさせて」
…仕方ない。
彼の言葉を免罪符に、頭を彼の胸元にぐりぐりしながら身を委ねた。
20250216 【時間よ止まれ】
2/16/2025, 1:14:38 PM