春の光がさす回廊で、僕はあなたとすれちがった。
あなたは何も言わず、いつものようにベールをまとわせた手を口元にやり伏し目がちに歩いていた。
保護者代わりというのに、3ヶ月ぶりに会ったというのに、あなたは僕に何も言わない。
まるで言うことがわかっているから伝えなくてもいいと言わんばかりだ。
(あぁ、そうさ。言われなくたって、あなたの言いたいことはわかっている)
『この終焉を止めること。それがあなたの役割です。わかっていますね?』
それがあなたの口癖だった。
何度も言われすぎて、僕はあなたが口を開くと同時にそれを言えるようになってしまった。
だから僕らはもう、何も言わない。
お互いに役目を果たし終えるまで。何か言葉を交わすとすれば、それは何かあった時だろう。
僕はあなたに、いつかしていた親にするような希望は持たず、今日もあなたの駒として戦場に向かう。
12/22『光の回廊』
ひらひらと雪が積もっていくように、ひとひらひとひら思い出が積もっていく。
君と言葉を交わす度に。
君がまばたきをする度に。
君が僕を呼ぶ度に。
ひとつひとつが重なって、好きのミルクレープが出来そうだ。
そんな事言うと君は、
「詩人気取り?気持ち悪い」
なんて言うんだろうな。
12/21『降り積もる思い』
「はい、これでオーケー」
紙の束を水色のリボンで結んで、ダンボールのなかに入れた。
これは私の思い出の束。
そこにあるのは、手紙や写真など手に収まるくらいの紙の束。
こうしてリボンをかけて思い出をお菓子の缶に閉じ込めておくのだ。
そうして次に開いた時には、タイムカプセルのようにこのリボンをほどくとその時の記憶が蘇るという寸法だ。
(寸法だって偉そうに言うけど、ただ可愛く残したいだけなのよね)
12/20『時を結ぶリボン』
ひらひらと落ちてくる花が手のひらに着地した。
白い花。
花のように見える、雪。
着地した雪は数秒後には溶けて消えてしまう。
「何してるの?」
聞こえてきた声に振り向けば、雪が連れてきてくれた彼。
あなたを待っていたのと答えると、彼は「だと思った」と笑って私の手の上に雪うさぎを乗せた。
「待たせたお詫び」
にっこりと微笑む彼に心を撃ち抜かれた私は、手の中の雪うさぎが溶けてしまわないか心配になった。
冬の間しか会えない彼に、私は飽きもせず今年も会いに来た。
12/19『手のひらの贈り物』
いつまでも苦々しい思いが消えない
もう思い出したくもないのに
その温もりや優しかった声が消えない
あなたが消えてくれない
12/18『心の片隅で』
12/22/2025, 2:28:09 PM