センチメンタル・ジャーニー
改札に入る前、都会は怖いところだから気をつけなさいと口を酸っぱくして母が言っていた時も、自分はかわいくないから大丈夫だよと笑って手を振っていた。都会の夜は夜でも明るくて、寂れたスナックしか光が灯っていない地元とは大違いだと理解した。すれ違う人皆がキラキラしていて、道路を通るトラックでさえ何かのアナウンスをして街を賑わせていた。片手には大きすぎるキャリーバッグ、もう片方にはマップアプリ。右も左も分からないから縮こまって歩く。何メートルあるか分からないビル群にイケメンやら綺麗な人やらの看板が大きく貼られている。信号待ちでぼーっとその看板を眺めているうちに思う。自分がかわいくないことは思春期に入ってからはよーく理解していたし、先輩が高校卒業する前にと勇気を出した一世一代の告白もあえなく散った。失恋と言うには少し呆気なさすぎるし、元々成功すると思っていた訳でもない。ただちょっと、ほんのちょっとその優しさに期待してしまっただけで。
「おねえさんかわいいね!ごはん行かない?!」
髪とテンションの明るい男の人がそう声をかけてくるのを苦笑いして通り過ぎる。おそらく母が東京は怖いところと言っていた理由の一端だ。額面通りかわいいを受け取れるほどおめでたい頭はしていない。信号が青になったと同時に少し歩くスピードを早めると、後ろから本当はかわいくねーしブスが調子乗んなといった旨の罵詈雑言が耳に残った。ほらやっぱり。私はその程度の"かわいい"しか受け取れない女なのだ。もはや涙も出ない。少しだけ重くなった足で安いビジネスホテルまでの道を急いだ。
9/16/2025, 9:35:17 AM