世界のおわり

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《木枯らし》
普通の日常が壊れるのは一瞬である。
それを僕は数年前実感した。


僕の恋人が交通事故にあった。
頭を強く打った彼女の記憶は僕と会う前で止まっていた。

「はじめまして」
僕がいない時に目が覚めて良かったと思ってしまった。
彼女は人見知りで、目覚めた瞬間の僕との距離は近くて
耐えきれないものだっただろうし、それに
僕は彼女に拒絶されて、普通の反応を装うことなど出来なかっただろうから。


そこから僕は、彼女とはじめましてをやり直した。
周りの彼女と関わる人に僕との関係を内緒にして貰った。
偶然、病院の売店で仲良くなった風を装い、仲を深めていった。
距離感には細心の注意を払って、彼女が怖がらないようにしていた。
不安で泣いている彼女を抱きしめることはできずにただ、ハンカチを差し出すことしかできないその無力感に打ちひしがれることしかできない。


僕と彼女の埋まらない隙間に木枯らしが吹く。

1/17/2026, 11:33:03 AM