浅木

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 相手に向けて何かプレゼントをあげるときは、皆何をあげますでしょうか。実用品とか、あって困らないギフトカードとか、ネタだったりだとか、様々だと思います。
 私は「相手に似合いそうな物」を選んできました。
 長らく一緒にいると、なんとなく好みそうな物とかって見えてくるじゃ無いですか。色とか、形とか。可愛いもの、格好いい物など。少し見当がつかない場合は、必殺のギフトカードでやり過ごしたり。まぁ今の所友人達からは好評なので、特に選んだ物に問題は無さそうです。
 そして先月、とうとう私にもやって来たんです。彼女の誕生日というものが。
 お恥ずかしながら、友人へのプレゼントを選ぶことはどうにか出来る私ですが、彼女へ向けてというのは初めてのことです。悩みに悩んだ結果、彼女が普段から好んでいるモチーフをあげることにしました。
 彼女は青い薔薇が好きで、少し暗めの濃い青色を好んでいました。勿論他の色の服も着ているのを見ますし当然似合うのですが、彼女のイメージというと薔薇しか思い浮かばなかったのです。
 話し合った結果、誕生日月の末にお互いプレゼントを渡すことになりました。書き忘れましたが、私と彼女は誕生日が一緒の月で、こうしてプレゼントを渡し合うというのも楽しみにしていたんです。憧れるじゃないですか、こういうの。
 楽しみにしている日というのは中々来ない物で。たった一週間後が数ヶ月に感じながら、とうとうその日がやってきました。私が彼女に選んだのは青薔薇の形をした入浴剤です。美容がどうとかよく分からないことが沢山書いてありましたが、恐らく大丈夫でしょう。対応してくれた店員も太鼓判を押していましたし。
 食事をたのしんで一息ついた後、私たちはプレゼントをお互いに渡しました。嫌がられたらどうしよう、違う物がいいと言われたらどうしよう。心配しながら固唾を飲んで見守っていた私に、彼女は笑顔で嬉しい、と言ってくれました。
 緊張から解放され胸を撫で下ろしましたが、まだ彼女からのプレゼントを開けていません。箱に傷をつけないように丁寧に開けると、ドライフラワーが入っていました。とても綺麗な、青色の、薔薇。
 彼女は自分の好きな物をあげるタイプなのか?花の置物なんて部屋に飾った経験すらないが、たまにはいいかもしれない。何より好きな人から貰った物ですし、大切にしない理由がない。
 ありがとう、と口にしようと顔を上げたところで、彼女が笑っているのが目に入りました。
 笑顔はもちろん何回も見ていますし、その度に見惚れて話にならないのですが、その時の笑みは違いました。恐怖などでは無いのですが、何か、がしっと自分自身を掴まれるような、そんな感覚だったんです。
 思わず固まっていると、「どう?」と一言投げかけられました。
 数秒思考が止まりましたが、プレゼントの感想を聞いているのだと気がついた私は、こくこくと頷きながら「ありがとう」というのが精一杯。本当はもっと重ねた方がいい言葉があったのでしょうが、焦ってしまって口から何も出て来ません。
 どうしようどうしようと無い頭で考えていると、彼女がそっと私の手を握って来たんです。ただでさえ言葉に出来ない違和感と焦燥感で手一杯なのに、重ねて乱されてしまって身体が跳ねてしまいました。今まで手を握るのはなんら不思議なことは無かったのに。
「それ、私が好きな物なの」
 それはそうだろう、と頷くと、彼女は私が持っている箱と私の顔を交互に見て、「だから」続けて言ったのです。
「私の好きな物を持っているアナタは、私の物なの。その花はそういう証拠」
 ちゃんと飾っておいてね。せっかく枯れない物にしたんだから。

 その日、私はどうやって会話を終わらせて店を出て帰宅したのか今だに思い出せません。
 ですが貰った花は玄関先にありますし、埃一つ被ることなく綺麗に咲き誇っています。これが枯れることはきっと一生無いのだろうな、と思います。
 当然ですよね。自分から壊さなければ散らない物なのですから。





2024/5/23
「逃れられない」
 
 
 

5/23/2024, 1:16:53 PM