見えない未来へ
椰子の木の周りをぐるるるる…
うなりながらまわっていたトラが
バターになっちゃう
3歳の私はちびくろさんぼのお話に夢中
バターバター黄色くてトロッと美味しそう
すくって食べたい幼子の憧れトラバター
お話の中の食べ物は突拍子もなく非現実で
見えない未来へ掻き立てられる
だってこの頃バターなんて知らなかったし
ホットケーキもなかったから
おやつはおばあちゃんのきな粉おにぎり
それから数年経ったある日
船乗りの伯父ちゃんがヨーロッパから帰国した
土産は何とバターだった
それは円い缶入りで、船に乗ってやって来た
トラの絵はついていなかったががっかりなんてしていられない
なんたって半世紀前の田舎では
見ることもなかったレア品だ
家族が車座になり目の前のバター様に息を呑む
開缶とともに「ウッ」
嗅いだのことがない異様な臭い…
トラのにおいだきっと
あー確かにこの黄色は
間違いないこれはトラのバターだ
と子どもの私は思い込んだ
鼻をつまむ家族を横目に
すくって食べたいと申し出たが即却下
これは腐っているという事になってしまった
それでも高級なレア品は捨てるに捨てられず…
我が家でひっそりと鳴りを潜めていたのを
こっそり私は舐めたんだろう
瞬時に吐き気と頭痛に見舞われた
恐るべしトラ?バター
一撃を喰らった記憶は大人になった今も鮮明だ
11/21/2025, 5:06:31 AM