かたいなか

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「……『リトライだよ』しか思いつかねぇ」
初出から今年12月で20年だってさ。アレの影響でサ□ゲッチュ3買ったわ。
某所在住物書きは今回配信分のお題に対し、ほぼそっちのけで、昔々の隠れんぼゲーと猿捕獲ゲーをスマホで検索しては、当時を懐かしんでいる。
買い切りソフトと月額数百円のガラケーゲームが主流だった時代である。後に基本無料のガチャゲーが台頭するなど、誰が想像しただろう。

「個人的なハナシとしてはな」
基本0、無料からのガチャゲーが一番怖い。物書きは呟いた――凝り性なのだ。皆までは言わぬ。
「このアプリの♡の数に自惚れそうになったら、某ポイに置いてる二次創作垢見るの。全部リプ0だから」
自分を過信しないこと。「もっと」が欲しくなり始めたら、まず手元の力量を確認すること。0からの今までを確認できる方法を、可能なら作っておくこと。
物書きは全課金額を、試しに計算してみようと――

――――――

私の職場の先輩は、物知りで、謎が多い。
淡々と仕事をこなす比較的平坦な人、と思えば
自宅のアパート近くの神社に咲く花を撮るし、
無駄より効率を好む比較的無機質な人、と思えば
無害な冷やかしおばーちゃんに「お茶淹れるの上手ね」って褒められて長話を聞かされてるし。

一番の謎は、先輩の自称「独学の付け焼き刃」。
先輩は相手の年齢と性別からだいたいの性格と性質を予測して、少しの表情の変化から相手の心を読む。
「50代男性はPFCが」とか、「人が感情を偽っていると表情の対象性が崩れる」とか。
まるで警察か探偵とか、心理学者とかだけど、先輩いわく、そういう仕事をしたことはないらしい。

先輩はいったい、どこで勉強したんだろう。
アパートにはたくさん難しい本があるけど、本読むだけで、そこまで身につくものなのかな。
それとも大学でそういう卒論書いたとか?

――「……いや、完全に上京してからだ」
ニャンニャンニャン、猫の日の職場の、いつものお昼、いつもの休憩室、いつものテーブル。
先輩に「付け焼き刃」の心理学を聞いたら、「心理学というより脳科学だ」って。
ドーパミンやオキシトシン云々、脳のブレーキの利き具合云々。そういう視点だって。
「前の前の、もうひとつ前の職場だったか。図書館の臨時職員をしていて、その時の3類……社会科学の担当に仕込まれたんだ。0からの叩き上げだよ」

「ゼロからの、たたきあげ、」
「付烏月、ツウキという男だ。私以上の変わり者さ。哲学や自然科学の担当ではないのに、心理学と脳科学の蔵書に関して、ともかく詳しかった」
「そのツーキってひとが、先輩の0からの先生?」
「そうだな。……そう言われると、そうだ」

「『そう言われると』?」
「向こうが一方的に詰め込んできた。『覚えとくとベンリダヨ〜』と。それはもう悪い笑顔で」
「悪い笑顔、」
「最近数年ぶりに会ったが、『面白そうだったからヒマつぶしにやった』『反省はしてない』だとさ」
「はぁ」

まぁ、今思えば実際に、ノルマの消化やら何やらに役立っているから、少し感謝はしても良いな。
先輩はそう言って、コーヒー飲んで、ため息。
先輩の前々職だか前前々職だかが図書館で、
その図書館の社会科学担当さんが変わり者で、
その変わり者さんが、ヒマつぶしで、先輩に。
そんな過去を辿って今に至った先輩について、少し分かったような、逆に分からなくなったような、
でも結局先輩は先輩であって、花が好きでお茶淹れるのが上手で、そこは何も変わらないような。

「ツーキさん、付烏月さんねぇ……」
どんな人だろう。私はただお弁当突っついて、ミートボールかじって、見たこともない「先輩の心理学の先生」を、低解像度で想像した。

「最近菓子作りにハマっているそうだ」
「マジ?!」
「コロナ禍を機に、それこそ0からの独学で。
クッキーを貰ったが、なかなか美味かった」
「マジ……?!」

2/22/2024, 4:41:05 AM