『霜降る朝』
さっっっむ!?
けたたましく鳴るアラームで目を覚ましたものの、ベッドから出なくてもわかる寒さに、思わず毛布を深く被った。
「ふぁぶっ?」
なぜか俺の脇の下に潜り込んでいた彼女を巻き込んでしまったらしい。
もごもごと毛布から頭が出でてきた。
まだ眠たいのか、目を閉じたまま彼女はしっくりくる位置を探している。
「あ、ごめんなさい」
「んー……?」
もう一度、俺の脇の下に戻してあげたいが、あいにく俺は起きる時間だ。
不本意ながら彼女の枕を差し込むが、どうやらお気に召さなかったらしい。
眉を寄せながら重たそうに瞼を持ち上げた。
ぼんやりと彷徨っていた視線が俺を捉える。
「……今日、早い日だっけ?」
まだ眠たそうな視線を受け止めながら、うなずいた。
「ええ。始発で行きます」
「そか。気をつけて」
「ありがとうございます。あなたも、出るときは気をつけてくださいね」
小さくうなずいた彼女の頬に軽くキスをしたあと、体を起こす。
意を決してベッドから降りようとすると、彼女が俺の腰にしがみついてきた。
「ちょっと。出たくなくなっちゃうのでやめてください」
「んふー」
寝ぼけているときに限って、特段かわいいことをする。
もう出なければいけないから、目を覚ますまで彼女を待つこともできなかった。
目が開いていないまま、楽しそうに頬を擦り寄せる彼女のまんまるな頭を撫でる。
「仕方のない人ですね?」
寝起きだから控えていたが、彼女が求めるなら応える以外の選択肢はなかった。
互いに冷えた唇を温め合う。
薄い桜色の唇が艶を帯びた頃、2度目のアラームが俺たちを引き裂いた。
後ろ髪を引かれる思いで彼女の唇から離れる。
「……そろそろ出ます」
「ん。いってらっしゃーぃ」
毛布から手を出して力なく振ったその手を握った。
ほかほかと彼女の体温が伝わってくる。
往生際悪くその指先にもキスをして、俺はようやくベッドから出た。
*
すっかり寝坊した朝日はまだ夜の帷に包まれていた。
うっすらとではあるが、草木に霜が降りている。
なるほど。
どおりで寒いわけだ。
出したばかりのマフラーを巻き直して、少しでも空気が肌に触れるのを塞ぐ。
またひとつ、季節がひとつ進んだと感じた。
11/29/2025, 8:20:56 AM