たぬたぬちゃがま

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ごうごうと雨が降る中、遠くからガラガラと音がする。
彼女は布団を頭からかぶって窓越しに外を見つめていた。怖がっているのかと覗き込めば、わくわく、と言わんばかりに目を輝かせていた。
「雷だよ……!」
「あ、あぁ、うん」
「光ってるよぉ!」
「…………」
なにが彼女の琴線に触れたかわからないが、電気の圧倒的質量に心奪われているのは間違いない。子供向けアニメに出てくる電気ネズミのようだと思った。
「外行きたい」
アニメの電気ネズミと同じことを言い出した。それならば返答はネズミの飼い主と同じく、ひとつしかない。
「ダメです」
「なんで!」
「大雨警報出ているからですよ、天気予報見てました?」
はぁ、とため息をつくが、彼女は諦めが悪かった。
「ベランダだけ!ちょーっと出るだけ!」
「ダメです。ここマンションですから、地面にいる時より危険なんです。ダメです」
前世は雷に近い生き物だったのかもしれない。電気ウナギとか、カモノハシとか、案外植物なら稲とか。
ぷーっと不服そうな彼女にダメ押しでいけませんよ、と答えると、渋々窓越しに鑑賞することで妥協したらしく外をじっと見つめた。
横顔はきらきらと輝くようで、お気に入りのおもちゃを見つけた子供のようだと感じた。
「予報だと、この後もっと近くで落雷があるそうですよ」
ぽつりと呟いただけのつもりの言葉に、彼女はパァッと顔を輝かせると、防水のアウターやらを持ってこようと立ち上がる。
「外はダメです」
その言葉を聞いた途端に嫌そうな顔をむけてくる彼女。どれだけ雷が好きなんだ、彼氏を前にしているというのに。
自然現象に嫉妬しても仕方ないとわかっているが、彼女を布団で包んで逃げ出さないよう優しく抱きかかえた。



【遠雷】

8/24/2025, 7:11:04 AM