泣かないで
高校に入学してから、弓道部に入部した私は、二つ上の三年生の|葉山貴俊《はやまたかとし》先輩のことを好きになった。
先輩は弓道部の部長でもあり、高校の弓道部入部体験で最初に私にレッスンをしてくれた人。
興味があった訳では無く、少し経験のある友達の誘いで見学に来た私は全くの初心者………そんな私は運動神経が良くないこともあってか、初めての弓体験にドキドキしてしまっていたのを覚えている。
そんな私に手取り足取り丁寧に優しく教えてくれたのが葉山先輩でした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ!」
「はい、でも………私運動神経もセンス無いので………」
「あははっ、そんなの気にしなくて大丈夫だよ! ほらお手本やるから見ててご覧」
そう言って弓を構える姿勢をとる先輩は、袴を着ていることもあってかその姿は凛としていて凄くカッコよくて………その後、的に向かって集中してから矢を放った瞬間ズバンと音がしてドキッとする私。
そして、目の前に射った矢が的の真ん中に命中しているのを見て凄くカッコイイと感じた私は、単純かもしれないけど「自分もやってみたい!」そう思わせてくれた。
それから体験入部で弓の持ち方 、構え方を葉山先輩から手取り足取り丁寧に教えてもらい、実際に弓を引いて、的を狙って射ってみると真ん中では無いものの命中していて………。
その時、何だか心身が研ぎ澄まされていくような不思議な感覚を覚えた私は、この部活の明るさと、賑やかな雰囲気と、先輩の優しさが心地よく、何故か入部を辞めた友達とは打って変わって私は入部を決意し入部することに。
弓道部は人数が少ないこともあってか練習は男女合同でやる為、私は何時も葉山先輩から教えて貰っていたけれど、簡単そうに見えて実際はそうでは無く………。
少しずつしか進まない練習に心が折れそうになる私は、良く辞めたいと言って先輩を困らせてしまっていた。
気が付けば、入部して半年が過ぎ夏になる頃には、途中で辞めてしまう子が出てきてしまい、一年生の人数が半分に………そんな中で今まで練習してこれたのは葉宮先輩とペアだったからかもしれない。
「大丈夫、無理しないで出来るところまでで大丈夫だからね」
何時もそう言って甘えさせて貰っていた。
そのせいでか、同級生からは皮肉を言われることもあったのだけど、何時も先輩が庇ってくれて事なきを得て来たことも続けられた一因である。
そんな先輩は弓道部の部長なだけでなく、県大会に出場する程の腕前でもあり、爽やかなイケメンで筋肉質の胸を半分抱けさせて弓を射る姿がビジュアル的にカッコイイのだろう………良く部活の練習中に見学に来る女子生徒が多くいた。
そのせいで、私は部活内の同級生の女子や女子の先輩だけでなく、何時しか見学に来る子達からも、葉山先輩に優しくされているのを嫉妬されて反感を買い文句を言われ、仕舞いには虐めを受けるようになる。
気付けば私と葉山先輩が付き合っているのだという間違った嘘の情報が影で噂になって広まり、何時しか部活内だけでなく、学校中の女子達の態度が冷たくなっていった。
「もうこんなの嫌だ! もうこんなの耐えられない!」
本当に心が折れそうになる頃、その噂を聞きつけた葉山先輩が私にその事実を確認して来た。
「ずっと気付かなくてごめん、女の子達から虐められてるって知ったんだけど其れは本当なの?」
「………」
「やっぱりそうなんだね」
「えっ………?」
「だってほら、涙がボロボロ………泣いてるよ」
答えられずにいる私だったけど、身体は反応してしまい、気付けば涙がボロボロ流れ落ちている。
「辛い思いさせてごめんね」
「なんで葉山先輩が謝るんですか、葉山先輩は何も悪くありません………」
「気づかなかったことに原因があると思ってる。それに、守れなかったことも………」
「先輩はこのままで大丈夫ですよ! 私がこの部活を辞めればそれで解決すると思ってるので」
皆は先輩を取られたくないのだから、私がこの部活を辞めればそれで解決するに違いないと思ったのだ。
「橋田茜ちゃん、茜ちゃんに非が見当たらないのに、辞めるなんて可笑しいと思うよ。 それにここまで弓道続けて来れたのに辞めるなんて勿体ないんじゃないかな」
「でも………」
その後私はワンワン子供のように泣いた。
どうしたらいいか自分でも良く分からなくなっていたから。
「ほら、もう泣かないで! 僕が皆に話すから、僕が君を守ってあげるから」
そう言って葉山先輩は地べたに座り込んで泣いている私の頭を優しく撫でてくれた。
それから先輩は部活の女子と、見学に来た女子達を集めると、こう言い放った。
「今日僕は色々と噂になっていた事実確認をして、橋田さんのことを知りました。皆には、何も非がない橋田さんに対してして今までしてきたことを謝罪して欲しいです。 それから、僕は今日から橋田さんと付き合うことになったので、もう、僕に付き纏うのは迷惑なので金輪際辞めてください! 今後、僕の彼女である橋田さんに何か危害が加えられた場合には、それなりの処分を受けてもらおうと思ってます」
その言葉に驚く私………。
だっていきなり彼女になっているんだもの。
驚く私の耳元で「彼氏ってのはマジだから」って………。
どんどん身体が火照り出して顔が赤くなる私。
その後、先輩のお陰で虐めは無くなり、皆からの冷たい態度は無くなり、先輩の追っかけも無くなって毎日が平和になった。
「あの、葉山先輩………本当に私なんかが彼女で良いんですか? 私なんかが彼女だと釣り合わないと思うんですけど………もしかして無理してませんか?」
あれから一ヶ月が過ぎた頃、私は葉山先輩との帰り道に勇気を出して確認する。
「無理なんかしてないよ、僕は体験入部で茜ちゃんと知り合ってから、茜ちゃんに一目惚れしたんだもの。 大丈夫もっと自分に自信もって! もう茜ちゃんを泣かせないからね、それと、葉山先輩じゃなくて二人の時は下の名前で呼んで欲しいかな…………」
少し照れながらそう言った。
「ありがとう先輩………えっと、貴俊くん!」
私が照れながら先輩の名前をうと、先輩の顔が近づいてきて一瞬のうちに唇を奪われた。
何だか気持ち良い感触………。
先輩は私のハートを射抜くのもカッコイイ。
私はもう泣かないで頑張れそうです。
これからも宜しくお願いします貴俊くん!
11/30/2022, 3:01:25 PM