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『突然の別れ』

 こんばんは。
 私、須藤霧子。
 どこにでもいる、一期一会な女子高生!
 そんな私には秘密がある。

 それは私は転生者であると言う事。
 とある事がきっかけで、ここがゲームの世界だと気づいたの。
 オタクの夢であるゲーム転生をして、私大勝利――
 という訳にもいかなかったりする……

 だってこのゲーム、バグゲーとしても有名で、ゲーマーの間では知らない人間はいないわ。
 今朝だって遅刻しそうだったから、壁すり抜けバグを利用してなんとか間に合わせたりね。
 意味が分からない?
 そうね、私もよく分からないわ。

 けど、このゲーム。
 バグさえ乗り越えれば、千年に一つの名作と言われるほど面白いの(私調べ)
 それで生前の私のは何度もプレイしたから、なんでも知っている。
 イベントも起こるバグも全部。
 攻略サイトも隅から隅まで見た。

 このゲームで知らないことは無い――
 と思っていたんだけど、今日事件が起きて…

 ◆

「えー、突然だが、鈴木が転校することになった。
 みんなと勉強するのは、今日で最後になる」
 
 朝のホームルームで、突然の知らせクラスメイトがざわめく。
 鈴木が転校するだって!?
 あまりに突然すぎてクラスメイトにとって青天の霹靂。
 ゲームを知り尽くした私にとっても同様だ。

 だってそうでしょう。
 その鈴木とやら、誰も知らないのである。
 私も、知らない。
 鈴木が不登校とかそういうわけではない。
 このクラスに鈴木なんて奴はいなんだから。

 どうやら新手のバグみたいだ。
 バグ報告掲示板でも、そんなの聞いたことない。
 まだ誰も知らないバグがあるとは、このゲームは奥が深いな。

「鈴木、別れの挨拶しろ。
 前に出てこい」
 呼ばれたが、誰も反応しない。
 そりゃそうだ。
 だって鈴木なんて生徒、いないんだもの。
 だから誰も出てくるはずがないんだけど、誰も名乗り出ない状況に教師はいらだち始めた。

「鈴木、何をボケっとしている。
 早く出てこい」
 教師は眉間にしわを寄せながら一点を見つめる。
 その目線の先にいるのは――

 私?

「えっと、私?」
「そうだ。お前意外に誰がいる?」
「私、須藤です」
「そうだな。 早く出てこい」
「はあ……」
 めんどくさいと思いつつ、私は教室の前に出る。
 クラスメイト達が、私を見ながら「あいつ、鈴木だったのか」とひそひそしている。
 だから私は鈴木じゃねえ、須藤だ。

「ほら鈴木、別れの挨拶をしろ」
「私、須藤です」
「いいからお前、挨拶しろ。
 お前転校するんだろ」
「しませんけど」
 おかしい。
 転校する予定なんてないのに、なんで転校するのか。
 流石の私も、クラスメイトとの突然の別れに、動揺を隠せない。

「えーっと、クラスメイトの皆。
 なんか今日転校するらしい「鈴木」です――先生、かぶせないでください」
 この教師、どうあっても私を鈴木に仕立て上げたいらしい。
「えっと、皆とは入学してから一か月しか、一緒にいませんでしたが、たくさんの楽しい思い出が……あったかな?
 もう少しみんなと仲良くしていれば良かったと思いました
 皆との突然の別れには驚きましたが、これからも――」
「じゃあ、挨拶すんだな。 教室出ていいぞ」
「終わってません」
 お別れの挨拶すらさせないのかよ、この教師。
 というか、今日の授業受けさせない気か。

「ほら皆も、今日でお別れのすど――鈴木に別れの拍手」
「ちょっと待ってください。
 今、須藤って言いましたよね」
「いいや?」
 ムカつく顔でとぼける教師。
 殴りてえ。
 クラスメイトも何が何やら分からない様子で、拍手し始める。
 やめろ、拍手しなくていい。

 それにしても、この教師、なんでここまで私を転校させたいのか……
 私の抗議の目に気づいたのか、教師が一言。
「校長には逆らえなくてな。悪く思うなよ」
 校長が諸悪の根源かよ。
 ここの校長、質の悪いバグを連発するんだよね……
 しかも設定でも、自分の気分次第でバンバン生徒を停学や退学させる、教師の風上にも置けないやつだ。
 つまり今回は、私もあいつの気分で転校させられると、そういうことか!

 私がいろいろ考えている間に、教師に背中を押され、追い出されるように教室を出る。
 なし崩しだったが、これでこのクラスとはさよならか。
 一か月という短い間とはいえ、お別れとなると感慨深いものがあるな。
 こんなことになるなら、もっとクラスメイトと仲良くすれば良かったよ。
 後悔ばかり押し寄せる。

 でも別れがあれば出会いもある。
 私は教室を出た足で、そのまま踵を返し、何食わぬ顔で教室に入る。
「転校してきた須藤です。よろしくお願いします」
 私は、さくっと挨拶し、自分の席に座る。
「そろったな、じゃあ授業を始める」
 担任の教師はも、何事も無かったかのように授業を始める。
 この世界では、このくらいの事は、日常茶飯事なのだ。

 だから、どんなトラブルに巻き込まれようと、自分の場所は自分で作らなければいけない。
 この世界では、ふてぶてしくなければやっていけないのだ。


 PS
 翌日、学校の校長が行方不明になった。
 それを受けて、先生方は大騒ぎをしている――ふりをしていた。
 校長は、教師陣からも嫌われていたらしい。
 おそらく、形だけ捜索をして打ち切るだろう

 どこに行ったかというと、私がバグを駆使し、校庭のそばにある悪趣味な銅像になったのだ。
 これからは、教師らしく生徒たちを見守ってくれるだろう。

 これで変なバグとはさようなら――できることを願うばかりである。

5/20/2024, 1:28:11 PM