かばやきうなぎ

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光と闇の狭間で


『魔にも神にもなれない中途半端さが良いと思いませんか?』

あ、ニンゲンの話です。
目の前の神官はニコニコといつもと同じ胡散臭い笑顔を貼り付けたまま唐突に語り出した。
またか。はー、とわざとらしく盛大にため息をついてやってから首の動きだけで先を促す。

おやおや、と仰々しく肩をすくめてきやがった顔を軽く睨んでやるとあーハイハイと話の続きを始めた。

『人間という中途半端な生き物をほめているんですよ。
美しくある事を何よりも尊びながら決して美しく生きられない。かと言って醜く生きるだけのものも持ち合わせない。他者を憂い、足を引き摺ってでもの仕上がらながら手を取り合う喜びを謳う。矛盾という言葉がありますがまさに。己を盾で守りながら矛で穿ちながら突き進む。』

クックックとそれはそれは楽しそうに笑う姿を横目にこちらもわざとらしい迄に顔を歪めた。目の前の面倒臭いを通り越してかったるい男の性癖に余程刺さったらしい。ダル。

『で、アンタは何が言いたいのよ』

目の前のビールをぐいっと飲み干して先を促した。
さっさと終わらせたほうが良いと判断したのだ、アタシは。

『えぇ、だからね。』
こちらに向き合い顔を寄せてくる男はこっそりと耳打ちする仕草をする。

『貴方方〝ニンゲン〝といると楽しいんです。
中庸の美と言いますか。
神を崇め他者の幸福を願いながら、敵と見做した者たちを平気で踏み躙り魔に染まる。美しいものを愛し、美しいものを欲しがって結果違うものを手にしては嘆き、己の持つ物よりも他者の持つ美しい物を奪う快楽に捉われる。』

立ち上がりくるりと回ってみせた男のマントが翻る。
酒場でやる動きではない。
ほら、周りの客たちからの視線が集まる。
それが気にならないのか、むしろスポットライトの中をオペラを謳うかのように朗々と男は続ける。

『光にも闇にもなりきれない』
ピタリと止まる。

『で、アンタのご高説は終わったわけ?』
目の前のビアシンケンにプスリとフォークを突き立てて勢いよく口の中に頬張る。口の中に広がる肉汁が甘い。

『違うわよ』

別に否定をしなくても良かった。まぁまぁそう思って居ても居なくても良いどうでも良い事だと思った。でもまぁ一応否定したかったのは目の前の胡散臭い男が気に食わなかったそれだけで。

『なりきれないんじゃなくて』
もう一つ。ビアシンケンにプスリとフォークを突き立てたままそのまま奴の目の前に突きつける。

『〝どっちにもなれる〝のよ』

人間の中途半端さの良いところね。
吐き捨てるように終わらせた会話にふむ…
と考え込む仕草をする男はなるほど、と小さく呟く。

『奥が深いですね。』
フォークに刺さったビアシンケンを手に取って口に運びながらやはり貴女は面白い。そう言って笑うものだから。

ちょっとだけのイタズラ心でアタシは問いかける。
『ねぇ、アンタはどっちなの?』

〝魔族〝の〝神官〝さん?
挑みかかるような視線を向けたアタシの目を受けて
男はニコリと微笑んだ。

『それは秘密です』


12/2/2024, 11:03:38 PM