人間以外の生き物の感情がわからない。そんなの当たり前だって言われるかもしれないけど、僕の先輩たちはみんなわかるって言う。
水族館で働きはじめて三ヶ月。僕はリクガメの飼育を担当している。名前は「くーちゃん」だ。
「ちゃんと愛情を注いでいれば、みんな反応してくれるよ」
毎日、愛を注いでいるのに、くーちゃんからはなんの反応も見られない。僕の愛が足りないのか、あるいは先輩たちより想像力が足りないのか。くーちゃんの感情は読めないままだった。
「まだ動物たちの感情が読めないんだよね。人間と違って、難しいよ」
彼女といるときに、そんなふうに話した。すると彼女は
「あんた、人の感情はわかると思ってんの?」
「え?」
それからも、僕はくーちゃんのお世話を続けた。最近は僕が来ると首を出してくれるようになった。それでも何を考えているかはわからない。
そんな変化が嬉しくて、それも彼女に報告した。
「人間みたいに言葉がない分、細かい動きとか、体の変化で読み取るしかないんだよね。それが難しくて、でもそれがやりがい?になってるのかな」
「・・・」
ほどなくして彼女は僕の元から去っていった。結局、人の感情もわからなかったみたいだ。
今日も僕はくーちゃんのお世話をする。ケージの中をキレイに掃除したあと、くーちゃんの顔を見ると、くーちゃんはゆっくりと目を閉じて、またゆっくりと目を開けて僕を見た。
12/14/2024, 1:22:26 AM