池上さゆり

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 昔からなんでも視えていた。それこそ、視えてはいけないようなものもあったし、他人の未来も過去も視えた。私は本当にそれが嫌だった。その度に傷ついて苦しくなるのは自分なのに、どこにも逃げ道がなくてどうしようもなかった。
 それでも、ずっと私のそばにいて大丈夫だと言い続けてくれた人がいた。私はその言葉を信じることはできなかった。それでも、なにがあっても近くにいてくれる彼に安心していた。
 そんなある時、家族が旅行に出かけた。体調が悪かった私は行けなかったから、行ってらっしゃいと見送った。そうして、部屋に戻って勉強をしようとした瞬間。視えてしまった。家族が車で事故を起こすところを。玉突き事故で前後からぺしゃんこにされる映像を。一瞬で、死んでしまうのだと察した。今から電話すれば間に合うかもしれないと思って、電話をかけたが誰も出てくれなかった。
 それからしばらくしてまた視えたのは、家の固定電話が鳴り響く音と、病院に運ばれたボロボロの家族の体だった。なにか行動を起こす暇もなく、電話は本当に鳴った。出られるはずもなかった。出なくたって、その電話の内容もわかってしまっていたから。
 なんでついて行かなかったのだろう。ついて行けば一緒に死ぬことだってできたのに。思わず、カッターを手に取って、自分の腕に刺した。そのまま力いっぱいに引きずりおろす。不思議と身体的な痛みはなくて心だけが痛んだ。
 そこに彼がやってきた。記憶ははっきりしていないけど、何度も大丈夫だと言い続けてくれた。
 それからしばらくして私たちは結婚した。結婚してすぐに私は「もう泣かないよ」と約束をした。もうなにが視えたって、彼は私より先に死なないと約束してくれた。常に怯えてばかりだったけど、それでも幸せだった。
 長い長い時間を共に過ごしたのち、約束はちゃんと果たされた。寿命を使い切った私は「君といれて意外と幸せだったかもしれない」と伝えてから、目を閉じた。

3/17/2024, 2:42:45 PM