たまには思い出すのも一興かと思い、箪笥の奥底に眠ってあったアルバムを取り出した。
最初の出逢いは最悪だった。
お前は俺を自分に喧嘩を売った奴だと勘違いしていたが、こちとら普通の男子高校生だ。
不良に絡まられるなど初めてで、どもってしまった。
勘違いが解けた後、お前は喧嘩を売った奴を探しにいったから直ぐに居なくなったな。
後にお前が隣の席の奴ってことは気付いたときは声には出さなかったものの、凄く驚いたんだ。
俺はもうその頃からお前に惹かれていたのだと今は思う。
一世一代の告白をした高校二年の冬。
鼻が赤く染まり、息を吐くと息は白く、雪と見間違う程だ。
結果から言うと成功した。
だが、プロポーズをする気があるのなら、これ以上のことをして見せろ!と嬉しい注文を付けてくれた。
三年は勉強の合間に清らかなお付き合いをした。
だが、触れるだけの接吻(キス)をしてしまったのはご愛嬌だ。
プロポーズは二人だけの秘密だから胸中にしまうが、我ながら良い出来だったと思う。
あれから十数年。
お前は忘れ形見を二人も遺して旅立った。
男親、片親なりの苦労があった。
息子たちとは何度もぶつかった。
その度に家族の絆が深まった気がした。
息子たちはそれぞれに世帯を持ち、幸せな生活を謳歌しているようだった。
お前のことはなるべく考えないようにしていた。
供養はちゃんとしたが、お前を喪った哀しみに酔って、残った宝も落とすようなことはしない。
まぁ、金が何かと入り用だったということもあるが、お前を思い出さないために、汗水垂らして働いた。
嗚呼、逢いたい。
声が聞きたい。
「愛している」と伝え続けたい。
今更、何を願っても変わらないが、最愛の人が息災であれば、何だって良かったのだ。
嗚呼、あれは幻か?
『たまには亭主をいたわらないとね。』
遂にまで可笑しくなったようだ。
だが、『そうだな。たまには、いいな。』
三月五日 二十一時 五十分
『たまには』
loto.
3/5/2024, 12:51:02 PM