君が紡ぐ歌
「〜♫」
「最近歌ってるよな。なんの曲だ?」
「ん〜、俺が作ろうとしてる曲!」
「新しい趣味か?絵ばっか描いてるだろ、充瑠は」
そう言うと、充瑠は顔をムスッとさせていつも腕に抱いているスケッチブックを取り出した。
「宝路!コレ、見て」
そこには独特な感性で描かれた、仲間たちの絵があった。
「なんだこれ」
意識していなかったせいか、充瑠にとっては傷つくかもしれない言葉が口から零れ落ちてしまった。
咄嗟に充瑠を見ると、何処か悲しそうな顔で絵を見つめていた。
「すまない……つい、口に出てしまって」
充瑠はいつもの燃え上がるような瞳で俺を見つめる。これは、気にしていないということだろうか。
「まあ、そんな宝路みたいな人達の為に、絵より伝えやすい歌で伝えようと思って!」
「……なるほど!それはワンダーなアイデアだな!」
「でも曲とか作ったことないから分かんなくて……」
頭を抱えて悩んでいる充瑠を見て、俺も何か出来ることがないかと考える。こんなに悩んでいる充瑠を見るのが新鮮で、どうも魅入ってしまった。
ヒラメキをする能力がある充瑠が、あんなに悩んでいる。……いや、そうじゃないのか。
「充瑠、お前は自分の思うままに書けばいいのさ。いつものように、な?」
助言をした途端、充瑠の曇っていた表情が一気に明るくなった。
「ありがとう宝路!できたら一番最初に教えてあげるね!」
充瑠が無邪気な笑顔で俺を見つめる。
すると、小指を差し出してきた。これは、指切りというやつだろうか。約束事をする時にする、儀式のようなもの。
充瑠を見つめ返して、指切りをする。忘れないように。
「おう、ワンダーサンキュー」
____
「〜♫」
「お兄様、それはなんの曲ですか?」
「マブシーナもこの曲の良さに気づいたか!」
「いや、その…知らない曲だと思って。も、もちろん!とても素敵な曲だと思います!」
地球では見ることの出来ない、輝きが目を癒してくれるような景色を見ながら、俺は肘をついていた。
もう、簡単には充瑠たちに会えないと思うと、どこか後悔というものがでてくる。
「……この曲には、終わりがないんだ」
「それは、どういう事ですか?」
充瑠は、俺がクリスタリアに戻るまでに曲を完成しきれなかったらしい。
クリスタリアに戻る直前、申し訳ないと謝りながら途中までの歌を教えてくれたのだ。だから、この曲は俺にとって、終わりがない。
「アイツが、充瑠がきっと、この曲をゆっくりと紡いでくれるさ」
「充瑠さんがこの曲を作ったのですね!なるほど、だからキラキラしているのですか……」
「キラキラ?」
周りの人達は、完成が豊かな人が多いらしい。それは、想像力があって、心が綺麗な人が多いからだろう。
「ええ、そうです。まるで、戦っていたあの頃を思い出すような、そんな感じがします」
平和になったこの世界と、地球は、今では考えられないような戦いをしてしたのか。
戦っていた本人であるのに、この平和に依存してしまって忘れていたらしい。
「……確かに。あの頃があったから、俺は今、幸せなんだな」
振り向いてマブシーナを見つめて、優しく微笑む。この眩しい世界には、戦ってきた仲間が地球よりも少ないという悲しさは、正直ある。
だからといって悲しい毎日を送っている訳では無い。俺はクリスタリアが大好きだからだ。
充瑠は今、その歴史を忘れさせないような歌を紡いでいる。
一番最初に教えてくれるという言葉を、俺はまだ忘れていない。
君が教えてくれるまで、俺はゆっくりと待とう。
10/19/2025, 11:52:40 AM