かたいなか

Open App

「『LINE』はこれで今年3回目なんだわ……」
7月11日の「1件のLINE」、9月1日か2日付近の「開けないLINE」。そして「君からのLINE」。
さすがに4度目のこのアルファベット4文字は無いだろう、多分。某所在住物書きは配信された題目に対して、昨日に続き今日も、頭を抱えた。
ネタの枯渇である。加齢で固くなった頭で、そうそう何度もグループチャットアプリの物語を書けようか。

「Line。回線・接続・釣り糸・方針・口癖等々。
『君から伸びる会話の延長線』とか、
『君から仕掛けられた釣りの糸』なんてのも、
思い付きはするけどさ。するけどさ……」
これ、次回のお題も難題だったら、どうしよう。
物書は悩みに悩み、何か突破口は無かろうかと、スマホの中のチャット履歴をそれとなく辿った。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、昼。
部屋の主を藤森といい、ソファーで室内の実用書や専門書を読み、ぼっちで静かに過ごしている。
両肩に後ろあんよを乗せているのは、どこからともなく侵入してきた、近所の稲荷神社在住の子狐。
藤森の髪でハミハミかじかじ、毛づくろいごっこ。
この不思議なコンコンには、ロックもセキュリティーも、現代の電子的常識さえ、通用しないのだ。

コロコロ、ぽてり。
藤森の頭に登ろうとしたネコ目イヌ科キツネ属は、足を滑らせ、ソファーの上に落ちた。
回転、ヘソ天、停止。幸福と愛情の詰まった腹が天井を向くまでの流れは芸術。
おお。癒やしの権化、尊みのあんよとポンポンよ。
すなわち着地に至る滑落からのLineよ。
汝の役割はお題回収である。

さて。
「付烏月さん?」
肩に乗っていたウルペスウルペス。今度は膝に上がり大きくあくびをして、首筋などポリポリ。
「ツルムラサキ?」
藤森はといえば、読んでいたいた本を閉じてスマホを手繰り寄せ、ポンポン。友人からグループチャットアプリのメッセージが届いたのだ。
ディスプレイをじっと見て、小さく首を傾けて、
己の蔵書たる約800冊、つまり本棚を見渡す。

藤森が再度呟いた。
「ツルムラサキ……」
途端、子狐が耳をピンとして、騒がしくなる。
藤森が発した言葉を認識し、「ツルムラサキ」が食い物であることを理解しているのである。
狐は肉食寄りの雑食性。美味と知れば、野菜も山菜も、もちろん果物も食うのだ。

つるむらさき!ツルムラサキ食べる!コンコン。
「ここに有るワケじゃない。落ち着け」
おひたし、天ぷら、ごまあえ!コンコン。
「だから。ここには無いんだ。子狐」
なんで?
「私の友人から、メッセージが来たんだ。
『隣の部屋からプランター菜園のツルムラサキを貰ったが、食い方が分からず、さばき切れない』と」

つれてって。 ツレテッテ。
「こ ぎ つ ね」

稲荷の子狐に上着を引っ張られながら、藤森は友人からのチャットメッセージに返信を入れる。
「天ぷらや、胡麻和えが、美味いらしい……と」
メッセージ送信者は名前を付烏月、ツウキといい、
彼の隣の部屋の60代マダムが、今週末の引っ越しに向けて、身辺整理と片付けの真っ最中。
付烏月との一時的な交流は、このアパート、この区内での最後の思い出づくり。
マダムは手料理を、付烏月は趣味で作った菓子を、互いに渡し、互いに受け取っていた。
メタいハナシをすると過去作前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので気にしてはいけない。

ピロン、ピロン、ピロン。
付烏月からのメッセージが藤森のスマホに届いた。
『・ω・)φ_ 天ぷらと胡麻和えオボエタ!

 ・ω・)φ_ ……。

 ノД`) それオンリーでヘビロテきちぃ』
おかわりおかわり!のスタンプが添えられた一連の嘆願は、付烏月に渡された「お裾分け」の量を確実に、正確に示している――多いのだ。

「ヘビロテきつい、と言われてもだな」
私は料理に関して詳しくないし、そういうサポートが可能な本を持っているワケでもないんだが。
頭をカリカリ掻き、ため息など吐いて、藤森は再度己の蔵書を、娯楽欠いて漫画も小説も雑誌も存在せぬ堅苦しい本棚を見渡す。
「んん……」
利用方法も記載されている植物図鑑に、ひょっとしたらヒントがあるかもしれない。
閃いた藤森は付烏月からのグループメッセージに返信しようと、視線をスマホに戻そうとして、
「……こぎつね?」
結果、まんまるおめめを食欲と食欲と食欲で輝かせる稲荷の子狐と、目が合った。

「食いたいのか」
たべる、キツネ、ツルムラサキ食べる!
「どうしても、食いたいのか」
たべる!つれてって、食べる!
ツルムラサキごはん、お揚げさん、おいなりさん!

「ちゃんと人間に化けて、おとなしくできるか」
それにかんしては、ゼンショ、いたします。こやん

9/16/2024, 2:57:34 AM