すれ違う人混みの多さに圧倒されながら、それでも見失うことのない彼に、彼だけに見つめられる優越感。
往来する雑多の中ですら聞こえる、歓喜に色めく声に劣等感に似た負い目が浮ついた心を攫っていく。
彼の言葉を、双眸を、与えられるてのひらの熱を疑うことはないけれど、それでも好意に応えられる自信がなくて。
一時の熱だとどこかで線引きをしていた。
「なあ、今なに考えてる?」
「……っ」
向かい合うように座ったカフェで見つめ合った榛色は獲物を捉えたように逃さない。
見透かされている、と感じていてもその眸は急かすことなく、こちらが言葉にするのを待っていた。
時に熱を帯びたように揺らめき、時には晴れの海のように穏やかに凪いでいる。
以前は知り得なかった深みをみせる、眦にすら越を得て。
はふ、と知らず詰めていた息を吐く。
「すこし、人混みに酔ったようで」
「うん」
たった2年しか違わない筈なのにずいぶんと大人な余裕を見せる虚勢だと笑ったけれど。
「……はやく、ふたりきりになりたいなって」
ぱちぱちと素早く瞬いて、ふいに逸らされる。
口元を覆って隠す手に、思いの外、彼の意表を突いたのだと知って、まだ知らない色があったと素直に笑んだ。
『優越感、劣等感』に、綯い交ぜにされる。
7/13/2024, 5:53:39 PM