薄墨

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お社じゃなくて、あっちの山に神様がいるような気がした。
“空”を見上げる。
頭上には、抜けるほどの青がどこまでも美しく広がっている。
コンクリートが灼熱に焼けている。

鳥居の向こう、真っ白な入道雲が、むくむくと肩を広げている。
蒸し暑い空気が、ゆったりと周りを取り巻いている。

飴を舐め溶かす。
こんな炎天下の天気には、とても合わないなと思いながら。
空腹が頭を揺らす。

ここからどこへ行こう。
アテはなかった。たった今、ここに来た理由を失ったところだった。

白い雲はまだまだ大きく育っていた。
あの雲がこの頭上を覆い隠せば、次期にここでも空が泣く。

今日はここで友達と待ち合わせのはずだった。
けれど、彼女はまだ来ない。
空が泣いたから。

私たちの頭上には、大きな瞳がある。
私たちを覗く目。
私たちの太陽の目。
私たちの日常の外側に繋がる目。
空。私たちの空。

きっと目の持ち主の空は幼いのだろう。
この大きな大きな瞳は、視界を隠されると泣くのだ。
駄々っ子のように、大声で、激しく。

私たちは雨の日だけは、あの瞳から解放される。
あの瞳の目線を外れる。
あまりに激しく泣くものだから、瞳の存在自体は忘れられないし、逃げられないのだけれど。

入道雲がむわりと、太る。
鳥居の奥で、際限なく広がって、瞳を隠そうとする。
今日、空が泣く。

カバンにつけた鈴が、ちりん、と呟いた。

9/16/2024, 2:45:34 PM