ミミッキュ

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"冬のはじまり"

「う〜寒っ…」
 食材の買い出しから帰って、台所の流し台に買ってきた物を置き、自身の手を見る。
 指先は赤く、氷のように冷たい。指の関節も、何かに制限されているかのように軋んで動かしづらい。
 暖かな息をかけながら、少しでも指がスムーズに動かせるように両手を擦り合わせる。
「う〜…」
 ふと、窓の外を見る。白い綿が灰色の曇り空からフワフワと舞い降りている。
「あ…」
 初雪だ。
──俺が中に入った時に降り始めたんか?
 一旦台所を出て、台所よりも大きな窓がある処置室に行き、窓に近付いて外を見上げる。
 雪が舞い踊りながら降ってくる様子はとても幻想的だった。
──まるで、スノードームの中にいるみたい。
 ほう、と息を吐く。そして時間を忘れてしばらく、窓の外に見蕩れていた。
「……っ、駄目だ駄目だ。早く買ってきた物仕舞わなきゃ」
 頭を振り、いそいそと台所に戻った。その頃にはもう指先は十分に暖まり、関節も思い通りに動かせるようになっていた。

11/29/2023, 1:26:27 PM